朝日新聞

嶋浩一郎 - ちょい読みインタビュー
嶋浩一郎

書店の平積み本コーナーと
新聞の書評は似ている


新聞って全部読む必要なんてないんですよ。気に入った記事をいくつかピックアップして読むだけでいい。本もそう。だから「ちょい読み」は大賛成。
「ちょい読み」におすすめしたいのは、日曜日の書評。自分自身が本屋の経営者だからかもしれませんが、書評は書店の平積み台を眺めるのに似ている。平積み本のコーナーからは、世間の人が今求めている情報の暗黙知が読み取れる気がするんです。大型の書店なら平積みの回転率が良いので、自然科学から小説まで多種多様な本が連日ものすごい勢いで入れ替わって、まるで世の中を映す鏡のよう。新聞の書評はそれと同じような感覚があります。
日々刻々と変化していくストレートなニュース記事ももちろん大事だけど、それとは別のちょっと引いた視点からでしか見えない問題や関心もある。それが書評には色濃く出ると思う。
嶋浩一郎

普段とは違った視座・視点で
世の中を見られるようになる


先日の書評では作家のトーマス・マンがナチスドイツに迫害され、亡命中に書いた日記本が紹介されていました。昨今のヨーロッパでナショナリズムやポピュリズムが台頭しているという事象に対し、ストレートニュースとは違った座標軸から「あ、そうなんだ」と思わせる視座・視点を与えてくれる内容でした。
「スナック研究序説」の書評も面白かった。飲み歩くのが好きな僕が最近感じていたのは、飲み屋は今後、スナックのようなキャラ立ちのする個人の店の時代になっていくだろうということ。書評を通じてタイミングよくスナックを学術的に論じた本に出会って「あ、やっぱりそうか」と妙に納得してしまいました。こんな風に書評は硬軟取り混ぜて世の中の動きを、全然違うところから見せてくれ、新しい気づきがある。
ところで、皆さん。書評って本を読むためのガイドみたいなものだと思っていませんか?でもそれは誤解。僕は書評だけで終わってもいいと思っているし、知ったかぶりをするために読んでもいい。正直に「書評に書いてあったんですけどね」と切り出したら、逆に「勉強してるなぁ」って感心されるかもしれないし(笑)。雑談の小ネタを仕入れるのにももってこいです。お笑い芸人で学者でもあるサンキュータツオさんが紹介していた「歯痛の文化史」なんか、古代はぐらつく歯をおさえるために顎にカエルをくくりつけたり、真っ赤に焼けた鉄で虫歯を治療していたなど、驚愕きょうがくと爆笑の小ネタが満載でした。今この時代になぜこの本なのか全くもって意味不明ですが、きっと現代が抱える何かとつながっているはずです(笑)。