コミュニケーション力に不安を感じる20代へ。同世代の新聞記者に聞いたコツ3つ

初対面の人と話すとき、自分のコミュニケーション力に不安を感じることはないでしょうか?
とくに就活生や新社会人の方は、「もっと思いを伝えたい」「相手の思いを汲み取りたい」と悔しくなる瞬間もあるかもしれません。

日頃から「聞く・話す」を現場で実践している新聞記者は、人とのコミュニケーションがとても重要ななりわいでもあります。取材の経験や先輩のアドバイスを通じてどんなコミュニケーションを学んでいくのでしょうか。朝日新聞入社5年目の高橋杏璃記者に聞きました。

コミュニケーションは3ステップで考える

写真 高橋杏璃

2022年4月に、3年間勤めた秋田総局から東京本社政治部に異動し、総理大臣の動向を追う首相番の担当記者になりました。最初のハードルは、官邸に出入りする人たちを「○○〇省の○○さんだ」と判別できるようになること。取材対象者の顔と肩書を組み合わせてカルタのように写真フォルダを整理して、それを使って頭に叩き込んでいきました。今は後ろ姿でも大体わかりますし、「あのメンバーならあの案件かな」などと推測もできるようになりましたが、当時は首相を追いかけ、省庁の人を追いかけ、1日に1万歩歩いていたときもありましたね。

今までの取材を振り返ると、仕事のコミュニケーションには「伝える・引き出す・答える」の3ステップがあると思います。

ステップ1.伝える力

会話の最初のポイントとして気をつけているのは、自分の熱意をいかに伝えるか。こちらが聞きたいことがあってお会いしているわけですから、ワクワクする気持ちを忘れずに、熱量の高さを短時間で伝えます。

私の場合、相手のメディア出演や著書などをチェックしておいて自然に話題に盛り込むなど。相手をきちんと知りたいという思いがあり、事前に準備をしてきていることが、さりげなく伝わるような工夫をしています。

ステップ2.引き出す力

新聞記者にとって最も重要な「引き出す力」は、取材対象によっても変わってきます。たとえば、一般の人と中央省庁の人では質問の仕方が違います。

中央省庁の人たちは取材慣れしているので、何か聞くとポンと答えが返ってきますが、表面的な模範解答であることが少なくありません。となると、答えがある程度予想できるので、「こう答えられたら次はこう聞く」という想定問答を準備しておきます。

さらに、二の矢、三の矢で質問を掘り下げていくことも重要です。はっきりとしたイエス・ノーが返ってこなくても、ニュアンスで真意を伝えてくれることも。テンポよく問いを重ねることで、その人自身の言葉を引き出せるように努めています。

一般の人とのコミュニケーションでは、省庁のときとは違った意味で、質問に質問を重ねます。たとえば、高校野球の取材で球児に「今日はどんな野球(試合)をしたいですか?」といった質問をすると、高い確率で「自分たちの野球をしたいです」という答えが返ってきます。自分たちの野球って、わかるようでよく考えるとフワッとしていますよね。焦点をクリアにするために質問を重ねていきます。「○○を徹底した守備を、○○を意識した攻撃を」といった具体的なお話しが引き出せるようになればいいですよね。

また、自分の気持ちを話すことをためらう人に対しては、あえて若干踏み込んだ質問をすることもあります。「私は○○だと思うのですが、あなたは?」「○○と考えていると推察しますが、違いますか?」といったワンクッションが、その人の言葉を引き出してくれることがあるのです。

とはいえ、取材慣れしていない人が相手の場合、無理に全部聞こうとするのではなく、最初の取材で「再取材しやすい関係性」を築くことを意識しています。この「先を見据えたコミュニケーション」も、とても大切にしていますね。

ステップ3.答える力

私自身、聞くほうが多くて答えるのは苦手なのですが(笑)。聞かれそうなことは事前に準備します。ただし、かなり準備していても「その場で考えて答えている」感じを出すことを大切にしています。なぜなら、コミュニケーションでは「会話のキャッチボールが成り立っている感覚」がすごく重要だから。答えは正しいけれど、準備してきたことを話している感じが出てしまうと、相手は「会話している」感覚にはなりにくいでしょう。これは、就職活動でもいかせると思います。

また、知識や理解に差がある場合は、相手に伝わる内容になっているかを気にかけています。たとえば、記者同士なら「朝回り(あさまわり)」が何のことかわかるけれど、一般の人には「朝のうちに取材先に行って取材すること」と言わないと伝わらないですよね。言葉の前に少し説明を付け加えるだけで、自分の答えたいことがスムーズに相手に伝わります。

写真 高橋杏璃

コミュニケーションのコツ1

  • POINT

    「伝える・引き出す・答える」の3ステップで考える

  • POINT

    熱意を伝え、質問を重ねて真意を引き出し、相手が理解しやすい言葉で答える

新聞をスクショした「話のネタ帳」で会話が弾む

写真 高橋杏璃

これまで私も、コミュニケーションでの苦労や失敗がたくさんありました。最初の赴任地の奈良総局では、上司に「質問の仕方がまどろっこしい」と注意されたことがあります。新人だし、どうしてもかしこまってしまって……。

そのとき上司に言われたのは「相手が家族や友達だったらどんな風に聞くかを考えてみる」こと。実は、親しい人と話すときは、面白いポイントがちゃんと前に来て簡潔に話せていることが多いのです。今は、取材相手が親しい人だったらと想像して、それを丁寧にする感じで話すことを意識しています。

私の出勤先は、外務省内にある記者クラブです。取材対象者といい会話ができるように、日頃から新聞の情報をストックしています。対象者が旬な事案に関わっていればいいけれど、そうではないときに何を話すのか。そこで役に立つのが、新聞をベースにした「話のネタ帳」です。

新聞には話のネタが満遍なくあるので、重要な記事はスクリーンショットをしてスマートフォンのアプリに保存し、「政治」「経済」などのタグをつけておきます。そうすれば、「今日はこの人が登庁しているから会えそうだな」というときも、サクッと見返してチェックしておくことができます。朝日新聞デジタルなら「スクラップ機能」があるので、そのまま「ネタ帳」にするのもいいですね。

ただ、テキストだけだと、どのくらいの扱いの記事だったかが思い出しにくいので、紙面のレイアウトのまま読める「紙面ビューアー」機能で表示してスクリーンショットをしておくのがおすすめです。これなら記事の扱われ方まですぐわかります。

コミュニケーションのコツ2

  • POINT

    親しい人と話すように端的にわかりやすく。ただし丁寧に

  • POINT

    新聞記事をストックして「話のネタ帳」を持っておく

入社5年目の記者が伝えたい、ビジネスや就活でのコミュニケーション

写真 高橋杏璃

取材活動に限らず、自分の思いを伝えることや相手の思いを汲み取ることは大切だと思います。まずは、自分にとって大事な人、以前から関心を持っていた人に会えたときは、そのうれしさやワクワクする気持ちを持ってみてください。そうすれば、うまく言葉にできなくてもきっと相手に思いは伝わるはずです。

とはいえ、ビジネスや就職活動では、思いや熱意だけでは通用しないこともあります。戦略的に会話を組み立てることも必要です。プレゼンテーションや面接などの前には、第三者に自分の答え方や質問の仕方、話し方を見せて、コミュニケーションを添削してもらうのもいいでしょう。

私は就職活動のとき、広告会社で働く先輩に添削してもらいました。伝えるのが上手な人はワンフレーズで表現するのがうまいんです。新聞でいうと「見出しをつける」ようなイメージでしょうか。たとえば、「学生時代に力を入れたこと」なんて皆さん似たりよったりですから、それを言葉でどうコーティングして伝えるかが勝負です。あとで「○○さんはこんなことを言っていたな」と思い出してもらえるようなワンフレーズがあると強いと思いますね。

コミュニケーションのコツ3

  • POINT

    自分のコミュニケーションを添削してもらおう

  • POINT

    ビジネスや就職活動においては、ワンフレーズで表現できる言葉が大切

写真 高橋杏璃
PROFILE

高橋杏璃 記者

1994年生まれ。東京都出身。2018年朝日新聞入社。初任地・奈良総局で1年、そのあと秋田総局で3年勤務。秋田では県魚であるハタハタ漁の取材に熱中した。2022年4月に東京本社政治部に異動し、安倍元首相銃撃事件があった昨夏参院選当時も含め首相番を担当。首相を追いかけ1日に1万歩以上歩くことも。現在は外務省担当。最近、韓国語教室に通い始めた。

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