真実を知る

「世論調査はみそ汁の味見」
有権者全体の縮図をつかむために奮闘

朝日新聞社 世論調査部/江口達也 四登敬

休日の朝、自宅でのんびりしていたら「世論調査」への協力を求める電話がかかってきた。そんな経験をしたことはありますか? 世論調査とは、新聞社・通信社・放送局などの報道機関が行うことが多い、個人を対象として実施する意識調査のこと。内閣支持率の推移や支持政党、政策などの賛否から、大型連休の過ごし方まで、国民の意識傾向を定期的に調査しているのです。

2021年に行われた第49回衆議院議員選挙、2022年に行われた第26回参議院議員選挙での調査の舞台裏を聞いた「世論調査の裏側【前編】」に続き、【後編】でも、記者魂で「世論の取材」に汗を流す世論調査部の四登敬記者と、世論調査一筋22年にもなる、同じく世論調査部の江口達也記者にインタビュー。よりフラットな情報を提供するために行っている工夫や2人の真摯な思いなど、「世論調査の裏側」を聞きました。

世論調査は有権者全体の縮図 だからこそ、国民の評価として政治に届ける

江口

世論調査部 江口 達也

朝日新聞では、国政選挙などの際に行う「情勢調査・出口調査」のほかに、毎月1500人の回答を目標に内閣支持や支持政党などを問う「世論調査」も実施していますね。

江口:はい。世論調査では主に、有権者が政治や社会に対して、どんな考えを持っているのかを調査しています。朝日新聞では、コンピューターがランダムに発生させた数字を組み合わせて電話番号をつくり、その番号にオペレーターが電話をする「電話調査」と、調査票を郵便で送って回答してもらう「郵送調査」を行っています。

回答者は「有権者全体の縮図」に近づける必要があるため、「回答者が朝日新聞を購読しているか否か」といったような、何らかの作為が入る余地はありません。おみそ汁の味見のように、「きちんとかき混ぜれば一口飲んだだけで味がわかる」のが、世論調査のイメージです。

おみそ汁ですか。面白い表現ですが、イメージしやすいですね。

江口:私たちは、その表現をよく使います(笑)。

有権者全体の縮図に近い世論調査は、国民の意見を政治に届けるという役割も担っています。政治に国民の意思を反映させる最大の機会として「選挙」がありますが、選挙は数年に1度しか行われません。また、選挙は1人1票のため、候補者や政党の政策全てに賛成できなくとも、複合的に考えて投票することになります。2021年の衆院選と2022年の参院選は、自民党が優勢となる結果でした。しかし、自民党に投票した有権者全員が、党の政策全てに賛成しているとは考えにくいでしょう。

そのため、世論調査には、選挙では表明しにくい個別の政策や社会課題への取り組みに対する国民の評価を政治に届けるという、非常に重要な役割があるのです。民主主義を補完する側面があるともいえるかもしれません。

先にお話しいただいた電話調査は、どのような方法で行っているのですか。

江口:電話調査は、コンピューターで数字をランダムに組み合わせてつくった電話番号に電話をかける「RDD(Random Digit Dialing)」方式で行っています。以前は固定電話だけを調査対象にしていましたが、今は携帯電話も対象に加えています。電話は専門のオペレーターが担当し丁寧な説明を心がけていますが、当然、突然かかってきた電話に警戒する人は少なくありません。そこが、この調査の難しいところで、コミュニケーション力が問われる仕事なのです。

このRDD方式のオペレーターによる電話調査は、毎月の世論調査だけでなく、大きな出来事があったときに実施する緊急調査や、【前編】でお話しした情勢調査にも採用されています。他社では、オペレーターを使わない、自動音声のオートコール調査を導入しているところもあり、同じ電話調査でもその方法は各社で異なります。

また、質問に関しても各社それぞれの方法を採用しており、例えば、朝日新聞は重ね聞きをしませんが、重ね聞きをする新聞社もあります。

内閣支持を重ね聞きした場合の回答傾向

内閣支持を重ね聞きした場合の回答傾向

それぞれの調査方法や質問方法によって、回収率やコスト面での善しあしはありますが、大なり小なり「回答の偏り」は生じてしまいます。最終的に、その偏りをどれだけ小さくできるのか、各種調査において、そこが重要になることは間違いありません。

作為を排除しカンに頼らず 調査を通して世の中を〝取材〟

四登

世論調査部 四登 敬

偏りという観点で見ると、電話調査の場合、オペレーターかオートコールかにかかわらず、時間に余裕のあることが多い高齢者の回答が増えそうです。

江口:そうですね。そうした偏りが出ないようにするために、固定電話の場合は、最初に電話に出た人に質問することはしていません。1)その世帯に同居している有権者の人数をお聞きし、2)コンピューターでその人数の範囲でランダムに数字を選び、3)年齢順で上から数えてその数字に該当する1人に答えていただく、という仕組みをとっています。もし、数字に該当する方が不在の場合は、時間をおいて再び電話しています。

無作為性を崩さないために、質問の内容や質問をする順番にも気を配っています。インターネットなどでは、朝日新聞は与党に厳しいから、批判的な回答が出やすいように設問を操作しているのではないかというご意見もありますが、むしろ、作為を排除した設問をいかにつくるかに頭を悩ませています。

例えば、何らかの不正を行ったA議員について聞くとします。「不正をしたA議員について、支持しますか? 支持しませんか?」といった質問はNGです。「不正をした」という言葉によって「支持しない」に回答が引っ張られる可能性があるからです。「A議員を支持するか否か」のみを問うのであれば、「不正をした」という情報は必要のない情報になるでしょう。

世論調査を有権者全体の縮図に近づけるために意識していることや、世論調査への向き合い方について、お二人の考えをお聞かせください。

江口:世論調査は、読者だけでなく政治家の判断や考え方に影響を及ぼす性質の情報です。調査方法や質問文が偏っているようであれば、継続性のある正しい比較や判断に支障が出てしまう。だからこそ、ベストを尽くした調査を行う必要があります。

朝日新聞の世論調査は、作為を排除してカンに頼らず、科学的な調査方法に基づき、決められたルールや手順をしっかり守って実施するという地道な作業を積み重ねています。その結果、より正確な調査結果を読者の方に提供することができるのです。

また、世論調査では、比較的世の中で話題になっているトピックが取り上げられるケースが多いため、国民の意見を網羅的に知ることができるという面白さもあります。その面白さが、読者の関心や興味の入り口になればうれしいですね。朝日新聞デジタルには関連記事のストックがたくさんありますから、さらに広く深く調べることもできるでしょう。

四登:私は、江口のように世論調査部一筋というわけではなく、5年前に配属となりました。もともとは現場の取材記者で、人にお目にかかってお話を伺ったり、写真を撮らせていただいたりしていました。

世論調査部に来て気づいたのは、「世論調査などの各種調査も取材である」ということです。有権者への質問文をつくるのは、インタビューで取材相手に何を聞こうかと考えるのと同じです。例えば、電話調査の場合、実際に質問するのはオペレーターで、回答は数字というデータとして集計されます。表面だけ見ると無機質な感じがしますが、そこには個々の有権者のお気持ちがしっかりと反映されているはずです。つまり、世論調査を通じて、世の中を取材しているのです。

先に江口が申しました「国民の意見を網羅的に知ることができる」と同じように、世論調査で、世の中の動きを把握することができます。ある政党の評価が上がってきたとか、下がってきたとか。社会の変化が時代背景とともに捉えられる面があります。報道機関として、そのような重要な情報を読者にお届けしていくという仕事に、これからも真摯に向き合っていきたいですね。

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