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30代にもなると、20代に感じていた「勢い」を失ってしまったようにも感じますが、「年齢を重ねる=勢いが衰える」ではありません。いくつになっても人は壁を壊すことができます。むしろ、これまで身につけてきた武器を生かして、より強固な壁を壊すことも可能なのです。

今回は、現役フットサル選手でありながら2017年10月からスタートアップの代表も務める、星翔太さんに話を伺いました。スポーツとビジネスの壁を突破し、「デュアルキャリア」を体現する星さんはいま、何を考えているのでしょうか。

星翔太(ほし しょうた)
1985年11月17日生。早稲田大学スポーツ科学部卒。2009年シーズンにFリーグ・バルドラール浦安へ入団、翌年にはフットサルの本場スペイン1部リーグに移籍。2年間スペインでプレー後、カタールでもプレー。2012FIFAフットサルワールドカップ日本代表メンバーに選出されるとその後、AFCフットサル選手権2014では日本代表チームのキャプテンに任命される。現在はFリーグバルドラール浦安に所属し、キャプテンとしてチームを牽引する。株式会社アスラボ代表取締役。

30歳にして、初めての社会人。しかし技術を盗むことは、アスリートとしての本壊

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--はじめに、星さんがアスリートとしての活動を続けながらビジネスの世界に飛び込んだ理由をお聞きしてもよろしいですか?

きっかけは、怪我です。2013年に膝の内側の靭帯を伸ばし、2015年にはサッカー選手に起こりやすい「グロインペイン症候群」で苦しみました。そして、それが治った2016年のシーズン開幕前には右膝の前十字靭帯を断裂して全治6ヶ月......。20代後半からの3、4年は長期の離脱ばかりでした。

そんな、満足にプレーできない日々の中で、アスリートの世界だけでなく色々な人と話す機会があって、自分なりに「スポーツを通して自分にしかできないことをやりたい」と考え始めたんです。ただ、それを実現するためには、僕は社会のことを何も知らないということも自覚していて。

そこで、週3のリハビリ日以外で働いて社会について学ぼうと思ったんです。そんな中、人づてで株式会社エードット代表の伊達さんにお会いし、週2日のインターンシップを始めました。

--31歳という年齢で、社会人経験ゼロ。会社に入るにあたり、葛藤や迷いはありませんでしたか?

迷いはありませんでしたね。僕は社会のことを何も知らなかったし、何も持っていなかった。だから、とりあえず会社に入ってゼロから学ばせてもらうしかないな、と。

僕は新しい環境に入ったとき、たくさん質問して観察して、スポンジのように吸収するように意識してきました。20歳でブラジルにフットサルの武者修行に行ったり、プロ契約してスペインのチームでプレーしたり......。そんな風にこれまでいろいろなカルチャーに飛び込んでいたので、「郷に入っては郷に従え」には慣れっこでした(笑)。

それに、エードットという環境にもすごく助けられました。エードットの人たちが若くてやる気のある人ばかりで、気さくに話しかけられて、わからないことには丁寧に答えてくれて。伊達さんにも、「新しいチャレンジ、とにかくやってみよう」と入るときには言われました。

--エードットは、ファーストキャリアとしてとても良い環境だったのですね。入社されたのが2016年9月ということですが、具体的にどのような業務をされていましたか?

最初はセールスプロモーション部に入り、営業として挨拶まわりや資料作りをする中で、名刺の渡し方や電話のかけ方など、本当にいちから教えてもらいました。

競技者は、基本的に人のモノ(技術)を盗むところから始まっていると僕は思っています。たとえばドリブルの技術はメッシやクリスティアーノ・ロナウドのドリブルを映像で何度も見て試す、という過程を経て習得していく。それと同じで、会社においても周りの人のスキルを盗んだことは沢山あります。

周囲を巻き込み、教えを乞い、社会人歴わずか1年で経営者に

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--セールスプロモーション部で営業としてインターンを始められたとのことですが、ずっと同じ仕事をされていましたか?

いえ。最初こそ社会人としてのベースを学びながらできることを少しずつやっていたのですが、営業は案件のスピードがすごく早いので、週に2回しか来ない僕に任せられる仕事って限られてくるじゃないですか。

そこで、社会人としてのベースをある程度身につけたあとは、PR部に移ることになりました。PR部では自分自身を商材として、どこに売り込めるか、どこに露出していくか自分で調べて、電話がけや資料作りをやっていました。

--そのPR部での活動のあと、いよいよスタートアップの立ち上げに携わることになったのですね。

インターンを始めて半年ほど経ったころのことです。社内でスポーツメディアを立ち上げようという話がちらほら聞こえてきました。そこで手を挙げて、PR部がそのメディアにどう関わるのか聞いたのがきっかけです。

話を聞くうちに、僕がもともと持っていたスポーツを学ぶことができるサイトのイメージと、そのスポーツメディアの目指す「スポーツ特化型"ストアカ"」という形が一致していることがわかったため、僕が「アスラボ」として推進していくことになりました。

--「ストアカ」といえば、個人が主催するビジネススキルや趣味の講座のプラットフォームですよね?そのスポーツ特化型とはどのような構想でしょうか?

トップアスリートがアマチュアプレイヤーを対象にスキルやマインドなどを指導する「クリニック」が集まるプラットフォームです。もともと僕個人では「クリニック」を通して指導をしていたんですけれど、それだけだとお客様も固定されてしまいます。プロリーグの集客にもつながっていないような気がしていたので、もっとこの動きを広げて、スポーツ人気の向上につなげたいと考えたんです。

--なるほど。社内で話があった事業と、星さんのアスリートとしてのWillがうまくマッチングしたのですね。そこから新規事業の立ち上げに本格的に携わられたと思いますが、社会人になって1年未満、しかもフットサル選手としての活動を続けながらで非常に大変だったのではないですか?

めちゃくちゃハードル高かったですよ(笑)!いろんな本を読んで、多くの事業計画書に目を通し、何がコアとなるのか押さえて。ただ、そういうコアを押さえたあとでも、それを言葉で表現する能力が圧倒的に不足していることが課題でした。

そこで、スポーツを通して伝えたいことを書き出して色々な人に見せて「これだとあまりに主観的すぎる」「課題を解決する方法を書きなさい」などのフィードバックをいただきながら、2017年10月、ようやく「アスラボ」として形にできました。

--星さんが主体となり、さまざまな人を巻き込んで、スタートアップ立ち上げに至ったのですね!その「巻き込み力」というのは、星さんがもともと持っていたものなのでしょうか?

人との関係性作りは、スポーツで培ったものに大きく助けられていると思いますね。1チームは30人ぐらいで、他のクラブや代表とつながれば、もっと人の輪は広がる。色々なタイプの選手・スタッフ・スポンサーと接してきましたからね。代表やチームでキャプテンを務め、見えてきた世界もあります。その力が、ビジネスでも生きたのかもしれません。

自分の強みを俯瞰せよ。そして、戦略家たれ。その強みは、別分野でもきっと生きる

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--お話を聞いていると、星さんはアスリート時代に培ってきた「吸収力」や「コミュニケーション力」をうまくビジネスに転化させているように思います。

そもそもアスリートとビジネスマンの「デュアルキャリア」と聞くとまったく別のことをするように思う方も多いですが、まだまだはじめて間もないながら感じるのは本質的にはビジネスとスポーツは同じ部分があるんですよ。ただ、それを認識する「レンズ」の色が違うだけ。そのレンズの色を変えるのが、アスラボの役割のひとつとも言えます。

たとえば、アスリートにいきなり「資料作ってください」と言っても作れるわけがないですし、苦手意識を感じてしまう可能性もある。でも、その資料がスポーツに関することだったらどうでしょう?自分の得意領域のことならそのハードルも下がるはず。

なので、僕はアスラボでアスリートがレッスンを開くときに、まず何が得意で何が苦手なのか書き出してもらっています。それを元に、本人に「マーケティング」をさせているんです。自分は何が得意で、集客するためには料金をいくらに設定して、施設はどこにするか、何時に始めて、誰を対象にすべきか......こういったことを考える時点で、それはもうビジネスの始まりだと思うんですよ。

--アスリートとしての経験がビジネスにつながる、というのは今の星さんを見ていればわかることですね。

アスリートほど、短期での結果を求められる職業ってあまりないと僕は思っています。試合ごとに勝ち負けが求められるわけですから。そこに向けてどう努力をしていくかという方法論を身につけていたことも、もしかしたら僕が短期で代表の立場を任せてもらえた理由かもしれませんね(笑)。

--決められた期間で結果を出すための「戦略性」とでも言いましょうか。それも昔から星さんが持っていた素養なんでしょうか?

そもそもの話をすると、僕はフットサル選手という進路を選んだ時点で、一般的な生涯賃金を稼げる可能性は低いと思っていたんです。なぜなら20歳から始めても、せいぜい20年間しか稼動できない。会社員として働いたときに比べて、半分の期間しか働けないんですよ。それに、サッカーなどのメジャースポーツと比べたら支えてくれる人も少ない。

じゃあそこでネガティブになるんじゃなくて、その条件下で結果を出すために何をするかが大事で。20年で何ができるか、そのためにどういった時間の使い方をするべきか、業界のために何をしていくか。やらなければいけないことを書き出して、取り組んできました。

このような戦略を大事にしているからこそ、アスリートにはまず得意なこと、苦手なことを書き出させて現状を認識してもらうのです。自分の60分にどれくらいの価値があるのか、ということを。現状を正確に把握することが戦略の第一歩ですから。 

アスラボで、スポーツをもっと日常的なものに

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▲星さんが立ち上げたアスラボ。アスリートとアスリートのレッスンを受けたい人をつなぐスポーツプラットフォーム

--あらためて、アスラボで実現したいことを教えてください。

「スポーツ=ボランティア」という風潮をなくすきっかけをつくりたい、と思っています。

この前アスラボのスタートに合わせて有料のキックオフイベントを実施したんですが、「お金がかかるんですね...」という声がよく聞こえてきました。スポーツに対してお金を払う文化がまだ浸透してないとわかってはいたものの、やっぱりショックでしたね。

何も、ただお金を払ってほしいわけではなくて、お金を少しでも払えば、アスリートはコミュニティにどんどん飛び込んでいけることを知ってほしくて。たとえば部活指導にアスリートひとり呼ぶのに100万円かかると思っていても、実際は5万円でよかったり。そこの金額は固定ではなく、お互いのニーズに合わせて変えていけるのに、認識に乖離があるのはすごくもったいないですよね。

--"無償"と"破格の値段"の2択ではないということですね。これから先のアスラボの未来予想図について少し教えてください。

まずはアスラボというサービスを認知してもらうことが最大の目的ですが、ひとつの案としてCtoCのプラットフォームにしていくことを考えています。

たとえばプロでなくても、地元にいたサッカーコーチって憧れの存在でしたよね?そういう人は各地にいて、彼らに教わりたいという人と、ボールを蹴りたいと思っているコーチのマッチングができればスポーツはもっと日常にあふれていくと思うんです。
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自分には何ができるか。その問いが、飛躍への第一歩

人はいくつになっても成長できる。星さんのお話は、そのことを改めて教えてくれます。吸収力、コミュニケーション力、戦略性と、アスリートとしての10年間で多くの武器を磨いてきた星さん。ビジネスの世界でも、この強みを武器にスポーツの世界の色をどんどん変えていくことでしょう。

もし新たなチャレンジをしたいと考えたり、あと一歩突き抜けたいと考えたりするならば、まずは自分自身の強みの棚卸しから始めてみてはいかがでしょうか。目の前の壁を突破する武器が、きっと見つかるはずです。その武器を持って、あなたもトップアスリートのように、突破力のあるビジネスパーソンに成長してください。

(取材・執筆:サムライト)

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