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起業を志す人の多くはビジネスモデルありきで準備を進めているのではないでしょうか。

しかし、「アイデアありきで起業するスタートアップの多くは失敗する」とLean Startup Japan LLC代表の和波俊久氏は指摘します。シリコンバレーで主流となったリーンスタートアップは、「アイデアを固めず反復を繰り返し、修正を繰り返していけばいずれ成功にたどり着く」という発想ですが、和波氏はそれさえも著書である「ビジネスモデル症候群」で否定しています。なぜ、起業家はアイデアを持ってはいけないのか。和波氏に、その真意について聞きました。

和波俊久(わなみとしひさ)
大学を卒業後、新卒で大手企業に就職するもその後起業し、成功と失敗の両方を経験する。これをきっかけに、起業を成功させるためのノウハウを独自に研究しはじめる。2010年にブログサイト"Lean Startup Japan"を開設し、リーン・スタートアップの日本における普及に貢献。現在は、多くの大学や独自プログラムの展開によって起業家育成に従事。著書に「ビジネスモデル症候群〜なぜ、スタートアップの失敗は繰り返されるのか?」(技術評論社)などがある。

アイデアに固執するから失敗する

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----起業するときは「実現したいアイデア」があり、それをもとにどう事業化するのか、先に計画を立ててから実行するのが一般的だと思います。しかし和波さんは、「ビジネスモデルを考えるほど、失敗する確率が高くなる」と著書で言っていますが、その理由を教えてください。

和波:ビジネスモデルというアイデアを持つとそれを実現することだけを目指してしまい、経営者が成長しなくなってしまうからです。今も昔もビジネスは「アイデアが良ければ成功する」と言われています。しかし、私自身の体験や支援してきた起業家の成否を観察すると、最初にアイデアを固めなかった起業家のほうが圧倒的に生き残る確率が高いのです。

----なるほど。実体験に基づかれているのですね。

和波:はい、自分自身も事業の立ち上げに失敗した経験があります。その後一度サラリーマンに戻って、ITプロジェクトのマネジメントをしていたんですけど、最初にカチッと計画を立てて、その通りにやろうとしても上手くいかないことが多かったんですね。そしたら、2000年代後半くらいにアジャイルという短期間に反復してシステムを開発する手法が日本でも普及し始めて。特にサービス開発の現場では徐々にそれがスタンダードになっていったんです。

そこで、ビジネスもソフトウェアも計画を立ててやり切るのではなく、反復的に開発してリスクを最小化した方がいいのではないかと思うようになりました。それで2008年頃から、自分なりにビジネス開発を反復して行う手段を探っていたんですね。その後に、リーンスタートアップの原型となるスティーブ・ブランクさんという人が書いた本に出会ったんです。

それを読んだときは衝撃を受けました。私が当時考えていたことが、そのまま書かれていたのですから。「先駆者がいるんだなぁ」と思いましたね。アジャイルで開発を進めていくことも、アメリカでは計画重視で進める企業が少なくなっていることも、その本を読んで確信に近づいていきました。

当時の日本ではまだ起業でも事業計画(書)が重視されていて、システム開発にアジャイルが有効と考えていた私は、「事業開発にもアジャイル的な思想を入れないとまずい」と危機感を感じ、2010年にLean Startup Japan LCCを立ち上げたんです。

----アジャイルとリーンスタートアップが似ていたんですね。

和波:そうですね。両者に共通するのはアイデアが固まりきる前に試してみる、ということなんですが、それがすごくしっくりきて。自分の頭だけで考えている時は、反復的な事業開発はなんとなく上手くいきそうとは思いつつも、「そんなことできるんだろうか」と半信半疑だったんです。でも、アメリカではすでにリーンスタートアップが主流になっていて、成功事例もたくさんあって。「早く世の中に広めたい」、って思ったんです。

それで実際にLean Startup Japanの活動を通じて、たくさんの経営支援をしていきました。最初は、アイデアをアジャイルして反復していけば、そのアイデアが磨かれて、最後は成功すると信じていました。しかし、次第にそれが間違いであることに気づきました。つまり、「アイデアからスタートしてはいけない」という結論に至ったのです。

課題を正しく捉え、最適な解決策を講じる

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----新しい要素を持ったアイデアが無ければ、起業のスタートラインにすら立てないと思うのですが。

和波:以前の私もそうであったように、「アイデアが良ければ成功する」と考えている人が多いかもしれません。しかし、ビジネスにおいて本当に大切なのは、課題を正しく捉える力と、最適な解決策を講じる力です。

スタートアップが失敗する理由は、アイデアが悪いからではありません。本当の理由は、会社や社会が抱えている課題を正しく捉えて、最適な解決策を講じられるようになる前に、経営資源、例えばお金やモチベーションが尽きてしまうからです。

----たしかに、成功している企業は、課題の捉え方が上手ですよね。

和波:まさに、GoogleやFacebookの創業者たちが成功した理由も同じで。彼らが検索エンジンやFacebookを生み出せたのは、良いアイデアを思いついたからではありません。自分たちが取り組んでいる課題がなぜ発生して、どう解決していけばいいのかをひたすら考えたからです。こうした課題を考え抜くと、課題の構造を正しく捉えることができ、的を射た解決策がアイデアとして出てくるんです。つまり、アイデアは起業のスタートラインではなく、課題を理解して、解決策を模索し続けた後に辿り着いたゴールなんです。

経営し続けていれば、いつかチャンスが巡ってくる

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----では、課題を正しく理解できるまでは、起業に踏み切らないほうがいいのでしょうか。

和波:いえ、むしろ起業したほうがいいです。ビジネスをスタートしないと、課題の本質は見えてきません。始める前に知っていることなど「氷山の一角」に過ぎないからです。ただ、最初から全てのお金を投資する人生をかけた起業をしてはいけません。貯金をすり減らすことなく生活ができて、課題の本質を捉えたビジネスを何でもいいから提供する。この2点を守れば、最初は小さな起業でいいんです。最初から良いアイデアを持って起業するよりも、何もわからない状態から起業したほうが事業に伸びしろがあります。「自分はなにも知らない」という自覚が起業家にあれば、もし失敗しても、失敗を認めて次はどうすればいいのかを考えられる。試行錯誤する好循環が生まれてくるんです。

----起業してから成長すればいいんですね。

和波:経営とビジネスの関係は、ニワトリと卵の関係に例えられます。起業家は成功するビジネス、「金の卵」を最初から産めると考えていますが、最初から金の卵を産める確率は限りなくゼロに近いんです。なので、まずは「普通の卵」を産めるニワトリ、つまり会社を長く続けられる最低限のビジネスを生み出す経営基盤をつくる。そして、普通の卵を産み続けるなかで、金の卵が産まれてきたら、ゆっくりと孵化させていけばいいのです。

起業したら課題を正しく捉えて、解決策を考えるのをやめないこと。そうすれば、課題にぶつかっても適切なアイデアがその都度生まれ、会社は長く続いていきます。いつか、絶対にやりたいことができるようになると思いますよ。

----起業する際の心構えとして、とても勉強になりました。本日はありがとうございました!

(取材:田尻亨太、執筆:鎌田淳生)

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