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2020年度に大学入試改革が実施されます。これまでの大学入試では知識・技能が重視されていましたが、入試改革後は知識・技能を土台とした思考力・判断力・表現力が重要になるそうです。小中学生の子どもを持つ親としては、今からどんな対策ができるのか気になる方も多いことでしょう。

そこで本稿では、中学受験向けに東京都・文京区で国語教室を運営している南雲ゆりかさんに、思考力・判断力・表現力およびそれらのベースとなる読解力を養う方法をうかがいました。

南雲ゆりか(なぐもゆりか)
東京都生まれ。フェリス女学院中学・高校を経て、横浜国立大学教育学部卒業。横浜市立小学校の教員を務めた後、長女出産を機に四谷大塚進学教室講師に転身した。10年間、「桜蔭特別コース」で指導にあたり、女子最難関といわれる桜蔭中学校合格率8割をたたき出す。2005年には長女の中学受験も経験。受験指導のプロ講師、受験生の母、元中学受験生にして小学校教諭の視点も備えた指導者として活躍している。

大学入試改革のポイントは読解力


――2020年度に大学入試改革が実施されます。改革が行われる背景にはどういったことがあるのでしょうか?

南雲:今の子どもたちが将来、AIに負けないためとか、あるいは国際社会の中で生き残っていくためとか、さまざまな背景があると思います。要は、先行きが不透明な時代でも生きていける人材の育成を目指しているのだと思います。そのためには思考力や判断力、表現力が重要になるので、2020年度の入試改革以降はこれらの力が試験で試されると言われています。

――要は国語力と捉えてよいですか?

南雲:ベースになるのはとにかく「読む力」だと思っています。これまでの一部の推薦入試で問題になっているような、いわゆるプレゼンテーションだけは上手というのも通用しなくなります。プレゼン力とか発信力ばかりを鍛えようとしても、それはハリボテでしかないのです。読む力、すなわち論理力や語彙力がない人が何を言っても、それは表面上のものであって、何かを生み出す力にはきっとならないと感じています。

――大学入試改革以降、すべての教科で思考力、判断力、表現力が必要になってくるのですか?

南雲:そうですね。中学入試の社会と理科にはすでに少しずつ影響が出てきています。理科と社会に関しては、データを読ませてそれに基づいて自分の意見を書くとか、そういった考えさせる問題がだいぶ出てくるようになりました私立の中学校でもいわゆる思考型の入試問題を実施する学校が少しずつ増えています。普通の4教科入試とは別立てで思考型の入試を設けたところもあります。

――2020年度に改革が一気に行われるわけではなく、もう徐々に変わってきているのですね。

南雲:これだけ話題になっているので、中学の入試問題にはすでに影響が出始めています。去年の入試では、駒場東邦という男子に人気のある難関校で、算数で自分の経験を書かせる問題が出てみんなびっくりしました。

――入試改革以降、受験で何がポイントになるのでしょうか?

南雲:ポイントになるのは、まず問題文が読めることです。サンプル問題を解いてみたのですが、結局、読めなければ何も書きようがない気がします。やはり読解力が重要という印象を受けています。

そして、読めていない人はよりボロが出やすくなっています。受験のハウツー本で、選択肢の選び方などを解説しているじゃないですか。こういうワードが入っていたら気をつけろとか。そのハウツーでなんとなく切り抜けてきた生徒さんは、ごまかしがきかなくなってくると思います。だから読み取ったことをちゃんと自分なりに「こういうことでしょう」と咀嚼して、新たにアウトプットするという一連の作業がちゃんとできているかが、さらけ出されてしまうのです。

大人との会話で社会を学ぶ

nagumo002.jpg――そういうことに対して、例えば小中学生の子どもを持つ親御さんは、今から何をすればよいのでしょうか?

南雲:とにかく子どもの読む力を伸ばすことが大事です。そうすると、小さいうちから問題集を解かせるのはあまりいいことではないのです。遊びでやる分にはいいのですが、一年生、二年生、三年生くらいの市販の国語の問題集は、文章が簡単すぎて読解の練習にはなりません。しかも子どもがやる気を失わないように、選択肢も本文を読まなくてもわかるようなあからさまなものが出てきたりします。

加えて、設問にも難点があって、例えば「この時の太郎さんの気持ちは何ですか?」としか聞いてこないのです。文中の言葉を使って書くとか、そういう条件がついていないので、非常に感覚的に解くくせ、アバウトに解くくせがついてしまうので、問題集を解く暇があったら大人と会話をしたほうがいい。そしてとにかく文章をいっぱい読むということが決め手だと思います。

――大人との会話ですか?

南雲:大人とのコミュニケーションはとても重要です。今の中学入試は、大人の視点で書かれた文章を読み、大人の視点で考えて解釈することが求められるようになっています。夫婦問題をテーマした文章が出てきたこともありました。たとえば、渋谷教育学園幕張中で出題された芥川龍之介の文章です。主人公が夢の中で死に、幽霊となって現世に行ってみると、奥さんが再婚しているのです。

それを仕方がないことだろうといいながら、どこかで奥さんを責めているのですね。そして、「妻に対して恐ろしい利己主義者になっている」自分を自覚するのですが、「この場合の利己主義とはどういうことか。」という問題が出ました。6年生の子が、自分の死後に再婚している奥さんを責めるという夫の心情に踏み込んだ解答を書かないといけないのです。

――大変ですね。

南雲:結局は、書いてあることを丹念に情報整理できれば解けるのです。しかし実体験からはまったくかけ離れていて、子どもたちは今までやってきた学校国語とのギャップを感じてしまう。従来の国語の授業は「どう感じましたか?」と質問して、子どもたちが感じたことから先生方が授業の筋道を作っていく。そういう組み立てになるのです。子どもたちは学校で「国語は感じる教科だ」「まずは感じることだ」と刷り込まれてしまっていて、そこでわからなくなってしまうのでしょう。

――今のうちからやるべきことは、大人との会話と文章を読むことですか?

南雲:そうです。加えて、社会を知ることも重要です。子どもたちは、机上の勉強ばかりをやっているので社会のことを知らないのです。例えばタクシーの料金が、初乗り運賃に加算されていくシステムだということを知らなかったりします。また、「今、日本の人口は増えていると思う人」と聞くと8割くらいの子が手を上げます。学校側にも、あまりにも世間のことを知らない子どもは困るという考えがありますから、例えば新聞を読むなどの対策が必要になってきます。

私の教室の親御さんの中には、朝日小学生新聞の「天声こども語」などをスクラップしている方がいらっしゃいます。子どもに読ませたい記事をピックアップしておいて、子どもが読んだらシールを貼るようにしているのです。とてもいいアイデアだと思います。記事について子どもと意見交換を行うことで、先ほど申し上げた大人とのコミュニケーション力も向上するでしょう。

――新聞が良いことはわかっているけれど、もしかしたら優先順位が高くないのかなという印象があります。それでも新聞を読むことをお勧めされますか?

南雲:新聞の良いところは、自分の求めている以外の情報が否応なしに目に入ってくることだと思います。紙の辞書にも同じことが言えます。電子辞書だと自分が調べたいものしか出てきませんが、紙の辞書だと思いもしないものに目が止まることがありますね。それで小学生にはやはり紙の辞書を勧めています。新聞も、たとえ広告だったとしても、面白い新しい本の紹介などが目に入ってくるのはいいことだと思います。それに、昔から新聞を読んでいる私からすると、紙の質感はちょっと手放せないですね。

――読ませるのだったら、やっぱり小学生のころから読ませたほうがいいですか?

南雲:「新聞は読むもの」という意識づけはしておくといいと思います。あと、縦書きの力は大きいと思います。速読の本に書いてあったのですが、横書きのものを読むよりも、縦書きのものを読んだほうが一度に吸収できる情報量がはるかに多いそうです。私も自分でワープロを使う時には絶対縦にします。他の人たちには違和感があると思うのですが、やっぱり目は左右よりも上下運動のほうが早くできるのですね。

――新聞を読んでいる子どもと読んでいない子どもには大分差がでますか?

南雲:朝日小学生新聞でもほかの新聞でもいいと思うのですが、良い学校に入った子どもの保護者の方で「新聞が役に立ちました」と言う人はたくさんいます。時事問題の対策にもなるからです。ただし新聞さえ読んでいれば難関校に入れるかというと、それはまた別問題です。一流の学校に入る生徒の親御さんは、先ほどお見せしたスクラップなどを上手に活用されています。

記事をネタにして自分の考えを言わせよう

nagumo003.jpg ――先ほどのスクラップはひとつの例だと思いますが、例えばどんな使い方をするといいのでしょうか?

南雲:繰り返しになりますが、新聞記事をネタにして親子で会話をすることですね。意見を言い合うといいと思います。今だったら北朝鮮問題で「お母さんはこう思うよ」「社会の先生はこう言っていたよ」とか、そのやり取りが効いてきます。そのうちに自分の意見を言えるようになってくるので、それが2020年型の勉強にもつながっていくと思います。

――毎朝やるのでしょうか?

南雲:朝はバタバタしていますから難しいかもしれませんね。夜は夜で塾があります。家でそういうやり取りをする時間がなかなかないかもしれませんが、例えば塾がない日の夕食時とか、ニュースを見ながら「そう言えば」という感じで話してみるといいでしょう。土日をうまく使うといいかもしれません。

――新聞のどこをどう読んだらいいのでしょうか?全体的に斜め読みするのですか?

南雲:いえ、まずは見出しを読む習慣をつけるといいです。例えば「20年前は夢、今現実に」という見出しを見て、何の記事なのかクイズにするのです。子どもには興味のないものを無理やり読ませてもいけないと思います。「携帯電話かな?」「人工知能かな?」と水を向けると案外興味を持つものです。

――なるほど、新聞を通して子どもの興味の範囲を広げていく工夫が大切なのですね。本日は貴重なお話をありがとうございました。

(取材・執筆:サムライト)

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