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少子高齢化が進み労働人口が減少していく日本。不足する労働力を補うために、AIなどのテクノロジーが今後さらに人々の職場や暮らしに進出していきます。そんな近い未来に、AIに代替されない能力として世界で注目されているのが「21世紀型スキル」です。日本もこうした状況に対応するため、2020年度より大幅な大学入試改革を行うことになりました。そこでは従来の知識・技能だけでなく、思考力・判断力・表現力までを含めた、多面的・総合的な評価で合否が判定されるようになります。

AIの普及やグローバル社会の拡大など、予測不能な未来に備えるために、どんな教育を我が子に施せばいいのか悩んでいる方も多いはず。そこで本稿では、城南予備校で現代文などを教える丹治直毅さん(城南進学研究社 教育事業本部 新学力開発部 部長)に、21世紀型スキルを伸ばす方法を伺います。

丹治直毅(たんじなおき)
宮城県生まれ、神奈川県育ち。早稲田大学文学部卒業。専攻はドイツ現代哲学。大学卒業後、城南進学研究社に入社、予備校部門に配属。現代文・小論文講師として最上位クラスから基礎クラスまで幅広く指導し、国立最難関大・早慶大などの合格者を多数輩出。2018年度より「新学力開発部」を立ち上げ、新入試に対応した新しいカリキュラム・教材・授業開発を手掛けている。趣味は読書・料理(特にカレー)だが、今は子育てに夢中。

21世紀型スキルとは何か


――今回は「21世紀型スキル」をどうやって伸ばすのかという話を伺えればと思います。まずは21世紀型スキルとはどういったものなのでしょうか?

丹治:「21世紀を生きる人材に必要と思われる能力」について整理した概念です。一般的には、21世紀を生き抜くために必要とされる、「基礎力」「思考力」「実践力」を意味しています。大雑把に言えば、読み書き計算+ICT(Information and Communication Technology:情報通信技術)が「基礎力」、問題に対する解決法を創造するのが「思考力」、主体的に行動しながら他者と協力して社会をつくるのが「実践力」、ということになるかと思います。

2018年の今、私たちは5年先の未来でさえどうなるのか分からない時代を生きています。グローバル化、情報化、日本の場合は人口減少など、様々な状況が複雑に絡みあって未来がどんなものになるのか、誰も正確に予測できません。そんな現代で求められる力は何か? それはずばり「予測不能な未来に対応できる力」です。

そこで「21世紀型スキル」の考え方では、予測不能な未来に対応するためには、「創造力・問題解決能力・コミュニケーション能力・情報リテラシー」などの能力が必要になると唱えています。 それを踏まえて、日本の教育は「思考力・判断力・表現力」「主体性・多様性・協働性」などを強化する方向へと舵を切りました。

21世紀型スキル(21世紀型能力)
「工業の発展=国力の発展」であった90年代半ばまでは、「知識量・計算力重視」の教育が時代に適していた。しかしIT化・グローバル化の最中にある現代においてはその教育はもはや通用しない。そこで、世界の教育関係者らが設立した国際団体「ATC21s(The Assessment and Teaching of 21st-Century Skills = 21世紀型スキル効果測定プロジェクト)」が新時代で求められる能力について整理したのが「21世紀型スキル」である。ACT21sは、21世紀型スキルとして挙げられる能力を以下の4つのカテゴリーに分類して定義している。

1.思考の方法:創造性、批判的思考、問題解決、意思決定と学習

2.仕事の方法:コミュニケーションと協働

3.学習ツール:情報通信技術(ICT)と情報リテラシー

4.社会生活:市民性、生活と職業、個人的および社会的責任

出典1:学校教育の情報化に関する懇親会(第7回)| 資料1これまでの主な意見 | 文部科学省

出典2:意外と知らない"21世紀型スキル"(vol.2) | 学びの場.com | 内田洋行教育総合研究所

21世紀型スキルを伸ばすには

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――21世紀型スキルはどうやって伸ばせばよいのでしょうか?

丹治:その明確な方法論は、まだ断言できる段階にないと私は思っています。私は今まで現代文や小論文の講師をやってきましたが、「思考力や表現力の向上を目指す」という方針は今に始まったことではありません。しかし「思考力・読解力・表現力」などは点数で評価しづらく、それゆえに成果が見えにくいのです。どういう教材でどういう授業を行えば、確実に力が伸びるのか。まだまだ研究の途上です。

ただ、これは絶対に必要だと断言できるものはあります。「他者の考えに触れること」と「語彙力です。そもそも「思考力」が発動するのは、疑問があるときです。自分がなじんだ考え方とは異なる考え方に触れたとき、「どういうこと?」「ほんとうにそうか?」「どうしてそう言えるのか?」などと考え始めるわけです。例えば高校生にとっては、大人(社会人)はそれだけですでに「他者」です。その大人が書いた文章を読んだり仕事の話を聞いたりして、自分とは異なる考え方から刺激を受けることが大切ですね。

しかし、その前提として、人の言うことを理解するための「語彙力」がなければなりません。「筆者の考えをまとめよ」という場合に、文章中の知らない言葉を飛ばして勝手に話を作ってしまう生徒がいますが、これでは「他者の考え」に出会えないわけです。その状態では「思考力」は育ちません。語彙力(知識)の有無が理解力を左右するのは当然ですが、ものの見方・考え方の育成にも大きく影響するのです。

そしてもう一つ、私の経験から大切だと言えるのが、「自分が興味・関心を持っている対象に一生懸命向かうこと」、また「それをとことん追求する場を生徒に与えること」です。

城南予備校では現在、高校1年生に対して「思考力・判断力・表現力対策講座」という授業を実施しています。例えば第1回目の講義では、「AI は人間の仕事を奪うのか」というテーマの文書を複数読ませ、それに関する小論文を書いてもらいました。

高校1年生というと、高学年に比べて受験に対する危機感がまだ薄いし、筆記量が多い「小論文」は気が進まない科目でしょう。そう推察した私は、まず「テーマを自分の問題に置き換えて考えさせる」というところから始めました。「あなたが将来学びたい学問・就きたい職業に関して、AIは現在、そして今後どのように活用されるか調べてみよう」といった具合です。

「もしも自分の将来の夢が『AIでもできる職業』として淘汰されてしまったら、あなたの夢は実現できないことになります。それは困りますね。今のうちにちょっと真剣に考えてみよう」と呼びかけると、最初の心配に反してみんな一生懸命課題に取り組んでくれました。

この課題に対して、人前で発表するのに尻込みしていた医療系志望の生徒が、「医療とAI」というテーマで調べたことを全員の前で発表してくれました。1人3分を持ち時間のノルマとして与えたのですが、6~7分ほど話してくれました。きちんと調べたので、ネタがたくさんあるのです。

医療現場では、例えば患者の診療記録を残す「カルテ」や業務報告書の作成に時間がかかっていて、それが医師や看護師の業務を圧迫している現状があります。そこで、話しかけた言葉をそのまま文字として入力するヒアラブル端末を導入した医療機関がもう登場しており、業務負担を軽減しているのだと紹介してくれました。

他にも、平昌オリンピック中継でAIによる音声合成技術などを活用したロボット実況が実現したことや、製鉄を行う高炉でAIが作業効率の改善に活用され始めていることなど、生徒が熱心に調べてきて発表してくれました。「社会問題を自分の問題と繋げて考える」という授業にいきいきと反応してくれた生徒たちを見て、「21世紀型スキル」の伸ばし方に大きなヒントをもらいました。

小学生や中学生に有効な学習法とは

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――先生は高校生に対して色々教えていらっしゃると思います。もう少し年齢層を下げて、例えば小中学生くらいの子どもにどんな教育を受けさせると良い効果が得られるでしょうか?

丹治:先ほどの高校生の授業の例は、小・中学生の教育にも応用できるのではないかと考えています。何度も言いますが、点数化できない能力は効果測定が本当に難しいです。例えば読み聞かせや読書の習慣をつけると賢い子どもに育つと一般には言われていますが、私の知る限り、それを裏付ける決定的なデータはないようです。一方、「ゲームばかりやっていると勉強時間が減って学力が下がる」という声もよく耳にしますが、それも証拠があるわけではありません。

何が正解かわからないのに、「これをやると良いらしい」と見聞きしたものを無理にやらせるのは賛成できません。まずは子どもが自分から興味を持てるものを発見することの方が大切ではないでしょうか。それを見つけたら、その興味を追求する場や機会を与えてあげましょう。読書が好きなら、知識を広げるために本を与えてあげれば良いでしょう。読書が苦手なら、スマホやタブレットでもいいのです。子どもも、調べようと思えばたくさんの情報を自分で集められるはずなのです。子どもが「おまわりさんになりたい」と言ったら、「じゃあ、どうやったらおまわりさんになれるだろう? 一緒に調べてみようか」と保護者の方が促してあげる。「恐竜が好き」なら、親子で一緒に博物館に行ってみるのも良いでしょう。信頼している家族が興味を持ってくれると、「認めてもらえた」という喜びもあって、子どもの積極性はどんどん増していきますよ。

――読書と関連しますが、新聞を読むことはためになるでしょうか?

丹治:はい、なると思います。高校生に対しては、社会の動きを知るために「新聞を一通りめくりなさいと言っています。

新聞を全部読もうと思っても、情報が膨大なので読み切れません。では、どうすればいいのかと言うと、「まずは見出しだけはるように」と言っています。見出しを見て、興味のあるジャンルや自分の将来に関わる分野の記事を見つけることです。それだけでも、「いま社会で何が起きているか」という感触だけはつかめます。そして、「知らない専門用語も出てくるが、その記事をきちんと読もう。あなたが看護師になりたいなら、医療ニュースや科学記事は読もう」と。100%分からなくてもいいのです。そこから調査や探究が始まるのですから。

――紙の新聞には偶然出会う記事というものもあります。そうした機会を大切にしてほしいということですね。本日は貴重なお話をありがとうございました。

(取材・執筆:サムライト)

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