就職活動

シューカツ見聞録

山口さん

埼玉県出身。武蔵大学卒。
塾講師のアルバイトをしながら、大学では陸上部長距離に所属。モットーは『親切・丁寧』 周囲からのあだ名は『終身名誉幹事長!』

第3章 逆転ホームラン(上)

「向いてない?」

いきなりハンマーで頭をぶん殴られたような気がした。

「きみ、向いてないよ」。就活まっただ中の昨年4月、とある証券会社で1対1の面接を受けた最後に、担当者が真顔で言い放った。

身長175センチのほっそりした体形。小さめの目に眼鏡をかけ、受け答えする声も決して大きいとは言えない。就活の先々で、線が細いという印象を持たれがちなのは分かっていた。でも、細身は陸上長距離ランナーの証し。バリバリの体育会系男子の誇りをずたずたにするようなセリフを浴びせられ、落ち込んだ。

「うちに来たいの?」

「……はい」

「ちょっとね~」

どうしてと聞くのも、もういいやという気持ちになり会社を後にした。残る証券会社は、A社だけ。「自分の頭で考えたことを全部言って、ダメだったらしょうがない」。1年の時から教わる経済学部金融学科のゼミの教授の言葉が浮かんだ。

実は就活戦線が幕を開けて間もないころ、その教授に就職相談をした時にも、こう言われていた。金融志望だと告げると、「がんばれよ。だけど、申し訳ないけど、君には向いてないかもしれない」。気心知れた「おもろいおっちゃん」ならではの親切心だったと思う。「この業界はなガツガツ行く感じだから。君はなよなよというか、おとなしく見えるからな……」。だが、せっかく投資や融資の勉強をしてきたんだから、お金を介して人と接する仕事をしてみたいという気持ちは変わらなかった。

2次面接の壁

教授の予言通り、苦戦の連続だった。特に銀行は相性が最悪。そんな時、支店訪問会をセットしてくれたA社のことを思い出した。各企業の面接が本格化する前、お邪魔した支店の雰囲気が、ほどよい緊張感となごやかな空気がマッチして、とても気に入った。社員同士でメモを渡す時も、会話の端々に温かみがあった。他の証券会社は社員がにこにこしていても、学生の目を気にして演技をしているように見えた。

とは言っても、そこは日本有数の証券会社。もっと小さい金融機関に対してもうまくいかないのにと、ダメもとでエントリーしてみた。他の会社と同じように1次面接はクリアし、昨年4月なかば、2次面接を受けた。この2次がどの企業でも難所だった。質問も、志望動機、学生時代にやったこと、入社できたらしたいこと、の3点セットで終わり。自分の特徴をアピールできずに終わることが続いていた。

A社も2次をパスをすればその日のうちか、次の日には連絡が来るはずだったが、なしのつぶて。落ちた場合の、いわゆる「サイレント」か。あきらめ切っていた一週間後、電話が鳴った。「営業で応募していらっしゃいますが、希望職種の項目の『システム』にもチェックを入れてますよね。そちらで進んでいただきたいのですが」。投資銀行やトレーディングなど2つまで職種を希望できる中で、営業とともにもう一つ、商品の企画、運用などに携わる「システム」を希望していたのだ。これも何かの運命か。二つ返事でOKをした。

「いいねえ~!」

こうなったら笑いの一つでも取ってこようと、3次面接では「システムには理系ばかりかもしれませんが、その中にこんな文系人間がいればポートフォリオ(リスク回避)効果があるんじゃないですか」と発言したら、「君、いいねえ~!」と受けた。さらには、全国どこへでも転勤は大丈夫か?と聞かれ、「ビザとガードマンを付けてもらえれば世界の危険地帯だって」と、意気込みを見せた。すると、「いいねえ~!」の声がまた上がった。

そんなとんとん拍子の時に出くわしたのが、別の証券会社の面接官からの「向いてないよ」のダメ出し。せっかく芽生えてきた自信をへし折るようなひと言だったが、5月1日の最終面接ではきっぱりと、その話を持ち出した。他の証券会社で自らの適性を疑問視されたことを明かせば、A社も採用の方針が揺らぐ恐れもあった。それでも、自分らしさを貫こうと、「そんなことを言われて悔しいので、絶対にここで40年、働きたいんです」。賭けは成功した。「いいねえ~!」。

教授に内定を報告したら、ほっとしたように言われた。「君のことが一番心配だったんだ」

その職種が向いているのか、向いていないのか。本当のところは、やってみないとだれも分からないのが仕事の現実。だからこそ、自分を信じて突き進むことも大事だ。おかげで運よく内定をもらえたように見えるかもしれないが、実は、大学の部活やアルバイトを通して身につけた資質と、それを見抜く採用側の確かな目があった。それは次回に。

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