就職活動

就活実話

Wの悲劇(下)

昨年4月、第一志望のA社の最終面接から数日間、何の返事がない一方、二番手のB社からの内定通知を受けることにした関東地方の大学生Aさん。ところが、こともあろうに、内定パーティーのさなか、本命企業の人事部から携帯に留守電が入った。こっそり聞くと、明るい声で「また、明日の朝かけます」。これって、もしかして……。留守電を聞いて以降、パーティーの食べ物もろくにのどを通らず、他の内定者の間でひきつった笑顔を降りまくのが精いっぱいだった。

果たして翌朝、「おめでとうございます」と、B社から正式な内定通知が届いた。「ありがとうございます。お受けします」。W内定の事態にうれしい反面、パーティーまで開いてくれたA社にどうやって断りを入れようか。後ろめたさが頭をもたげた。

あれやこれや思い巡らしたあげく、携帯のボタンを押した。人事担当者に何と言ったか覚えていない。A社は、内定をもらえば、ほぼ100%近い内定生が喜んでいくような企業だ。内定辞退という思わぬ事態に、びっくりした相手は不機嫌そうに「直接、事情を説明に来てください」と言った。

翌日、びくびくしながら通された会議室で待っていると、コーヒーが3つ運ばれてきた。「あっ、これが噂に聞いていたあれか!」と、脳裏に映画のようなワンシーンが浮かんだ。カップをつかんだ人事担当者が、熱いをコーヒーを自分にぶっかける……。

人事担当者2人が間もなく入ってきた。険しい表情だ。ついにオレも都市伝説の仲間入りかと思った瞬間、「コーヒー飲んでいいよ」。ほっとしたのもつかの間、「なぜ、ウソをついたのか」と、面接中に一貫して第一志望だと話してきたことへの追及が始まった。「こちらの会社の仕事に興味があることは本当です。でも、とても倍率が高いので、やはり第一志望と言わないと落とされてしまう気がして」。正直に話したのに対し、社員は「(面接の時に)今の気持ちを正直に言ってくれたら、こちらも理解したのに」と、本命かどうかで面接の途中で落とすことはない、と応じた。そのうえで、企業の将来性や仕事のやりがいなどを説明して、Aさんの気持ちを変えようと試みてきたが、それで揺らぐことはなかった。最後は、「君の選んだ道を応援するよ」と言ってくれ、後腐れなく別れを告げることができた。

しかし、とAさんは今でも思う。もし、第一志望が別にあると言ったら、本当に最終面接まで残れただろうか。やっぱり、違うと思う。一生に一度の就職戦線で就活生も必死だし、企業側だって膨大なエントリーシートの中から、学生を厳しく選別するだろう。第一志望というウソをつかないと生き残れないって、やっぱりおかしい。Aさんのわだかまりは今も続いている。

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