仕事力~働くを考えるコラム

就職活動

「「生涯のテーマは揺らぎなく」」
戸倉 蓉子が語る仕事--2

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ナースが建築業界へ

フルコミッション営業に直面

ナースになってから私は、白やグレーの天井、床、壁に囲まれた殺風景な病棟が残念でなりませんでした。もっと明るく、患者さんが元気になれる病院にしたい。思い詰めるうちに、いい環境を作る建築家に私自身がなろうと決意しました。それは、看護の変革者ナイチンゲールの教えから受け取った勇気です。まだ勤務2年半、20代前半での退職でした。

当時、キャリアアップの方法も知らずに片っ端から設計事務所のドアをたたきますが、全部門前払い。何もできないという焦燥感を抱えた私は、アメリカへ短期留学を試みました。住宅やマンション、病院、ホテルなど、美しい建物にはやはり気持ちを高揚させる力があり、私は建築やインテリアの可能性を信じることができたのです。

しかし、帰国後もナースの資格しか無い私に設計事務所への就職は難しかった。生活が苦しくなり、求人広告を見る毎日。決意新たに進んだ道から拒絶された思いです。そして当時でも給与が高く、求人も多いナースの仕事にどうしても目が行ってしまいます。ある日、渋谷の雑居ビルにあるクリニックに面接を受けようかと出向き、ハッと我に返りました。「ここに戻っちゃだめだ、何をやっているんだ」と私はビルの階段を駆け下りました。

そんなトンネルの中にいるような日々の中で出合ったのが、インテリアコーディネーターを募集する会社でした。これでやっとデザインが学べる。そう思って入ったものの、そこはフルコミッション、つまり完全歩合制で、リフォームの仕事を自分で取るところから始めるものでした。部長に「ついてこい」と言われて何も分からず同行した飛び込み営業。3日目からは一人で行ってこいと。不動産会社の営業担当者から顧客を紹介してもらい、プランを作り、見積もり、プレゼンも全て一人でやりました。必死でお客様に提案し、説得し、やっと契約にこぎつけると今度は現場監督の仕事。大工さんや左官屋さん、壁紙屋さんなど全ての業者と打ち合わせと価格交渉です。

全てを自分で考え、自分で決める。フルコミッションとは責任を負うことだと学びました。

スーツにヒール姿の現場監督

工事は近隣住民にとって迷惑なものです。例えばマンションで解体工事を朝9時からガーンと始めると、その騒音に怒鳴り込んでくる方もいます。「現場監督を出せ」と。「私です、申し訳ありません」と出て行きましたが、現場監督の服装も分からない新米の20代。当時のはやりのボディコンスーツにハイヒールです(笑)。先方はただキョトンとするばかり。いつも丁寧におわびしていました。

職人さんたちも真剣に取り組んでいると認めてくれるようになりました。難しい依頼でも何とかしようと協力してくれる。そして、そのことへの感謝や心遣いを忘れまいと自分に言い聞かせました。より良く完成させるというゴールへ向かって、お互いが本気で仕事をする。その根本があれば理解し合えるということが分かりました。

工事の進め方など何も知らない私は、一人前になることだけを求めて完全歩合制で3年間仕事をし、そこで気づきました。これなら独り立ちできると。次の展望が開けていきました。(談)

とくら・ようこ ●(株)ドムスデザイン代表取締役。一級建築士。1962年福島県生まれ。ナースとして慶應義塾大学病院勤務中、殺風景な病院環境を変えたいと建築家を志す。98年ミラノの大学に留学。建築家パオロ・ナーバ氏に師事。帰国後、一級建築士事務所を設立。「病院らしくない病院」などの志を掲げ、多くの建物を手掛ける。居住福祉賞などを受賞。2016年ベトナムにドムスインターナショナル設立。
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