仕事力~働くを考えるコラム

就職活動

「人と人の間に何が必要か」
小林 せかいが語る仕事--1

就職活動

自分そのままの空間へ

15歳、衝撃の喫茶店体験

読み掛けの小説の続きをどうしても読みたくて、中学3年生の私は、学校帰りに初めて一人で喫茶店に入りました。ココアを頼んで本を開きながら、私は今まで知らなかった心地良さを感じ、それがとても衝撃的でした。家庭での自分でもなく、学校での自分でもない。「自分そのまま」を受け入れてくれた空間だったからです。そして次の瞬間、私もいつかこんなお店をやるだろうと予感しました。

それからの私は、人を受け入れる空間を作るための実験を重ねてきました。喫茶店に初めて行った翌週には、教室の後ろにポットとインスタントコーヒーの粉を置いて、「ご自由に」とメッセージを添えたコーナーを作りました。傍らには貯金箱を。でもコーヒーを飲んでくれる人はたくさんいたのに、貯金箱にお金は無し。善意で回るシステムは難しいのだと実感しました。高校時代には大阪のゲイバーへ何度か足を運び、本名も知らずに仲良くなる在り方や、お金の使い方、会話などを体験し衝撃を受けたものです。

この頃は「世の中に救いはあるのか」と思い詰めたりしていて、哲学に強い関心を持っていました。進路をどうするかなどいろいろなことが分からなくなって、ついにある日家出をします。大阪の実家を離れ、一人東京へ出てアパートを借りアルバイトで日を暮らす。私はこうして繁華街で死んでいくんだろうなと本当に孤独でした。

ある日、ほとんど話をしたこともない仕事仲間が、お弁当を注文して一緒に食べようと誘ってくれたんです。そこで「いただきます」と声を合わせた瞬間、こうやって人と共にいることが自分には必要なんだと突然気づきました。触れ合いたいとか、分かり合いたいとか、そこまでの関わりではなく、見知らぬ者同士がただ隣り合い、同席する心地良さ。この思いへの実現が、今の定食屋「未来食堂」という仕事につながっています。

世の真理を知りたい

哲学を学びたいと考えていた私が、大学の理学部数学科を選んだのは、「揺るぎなく真に真たる」というようなことに興味があったからです。数字や数学は、それを追う世界だと思っていました。選んだ「理論数学」は、紙と鉛筆だけで証明問題を解き続ける授業が難しく、苦しかったですね。大学院に残らず企業に就職したのは、インターン時代にコンピューターで実際に役立つ成果物を生み出したことが楽しかったから。自分の頭の中だけで格闘する数学と違って、俗世はこんなに面白いんだと思いました(笑)。ただ、何が仮定で何が事実なのか、と物事を理論的に考える力はついたと思います。

会社で忙しく仕事をしながらも、「誰もが自分そのままでいられる空間」を実現する構想は持ち続けていました。6年近く勤務したコンピューター企業から転職した先は、料理レシピのコミュニティーサイト運営会社。エンジニアにとってはとても学びが多い所です。しかし半年ほどして私は、女性社員2人が、調理室で自分たちだけで豪華なパスタを作って食べている場に遭遇しました。メニュー開発の隠れた一助だったかも知れません。ただ、その姿を寂しいなと感じたのです。それはなぜなのだろうか。答えを探す気持ちが動いていました。(談)

こばやし・せかい ●飲食店「未来食堂」経営者。1984年大阪府生まれ。東京工業大学理学部数学科卒業。日本アイ・ビー・エム(株)、クックパッド(株)にて6年半のエンジニア勤務後、飲食業修業を経て未来食堂を2015年開業。「ただめし」「まかない」「あつらえ」などのユニークな仕組み、月次決算の公開、起業希望者へのアドバイスなど独自の運営を続ける。著書に『やりたいことがある人は未来食堂に来てください』など。
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