仕事力~働くを考えるコラム

就職活動

「自然のエネルギーを描き残す」
アラン・ウエストが語る仕事―4

就職活動

江戸の町絵師のように

アートへの垣根を低くしたい

私のアトリエは、元々は自動車整備工場でした。改築を始めるために、まず2年間はコツコツとお金をため、10年以上掛けて少しずつ、古い寺の門表や、柱、趣のあるガラス窓などを取り入れていきました。また、時間を見つけては天井画を一枚一枚描き、じっくりと隅々まで思い描くアトリエに近づけてきたのです。そして、町を散歩する人が「ここは何をしている所だろうか」とのぞきに来てくだされば、江戸の町絵師のように、私が描いている姿を見てもらえると思って。

それは、以前に何度か「実際はアシスタントに描かせているんでしょう」と誤解された残念さもあってのことでした。私は夕方お客さんが帰られてから、集中を必要とする制作をほぼ毎日翌朝の5時まで続けます。その間ずっと、材料を作ってくれる多くの職人さんの顔が浮かぶんですね。金箔(きんぱく)を使っている時は箔打ち職人さんの頑張りが分かるし、粒子がそろうように絵の具を砕く仕事や、千年も持つような和紙を漉(す)く人、筆師、表具師、掛け軸の表装に用いる織物を織る人、染物師など、無数の熟練した職人さんに助けられ、私は絵を描いているのです。

芸術やアートを志す人間は、いつもいつも自分の限界をどうやって超えるかと努力するものですが、私にとっては注文制作がその課題と向き合える機会となります。注文者の求めるものを渾身(こんしん)の思いで探り、私が作品を生む。その心のやり取りこそ尊いと思う。お客さんが満足して作品を手にし、これからの人生をずっと共に過ごしてくれることを考えると、喜びが湧き上がってきますね。

私にとっては、美術館で「どうだ」と自分の表現を主張することに意味はない。そうやって、芸術やアートは特別なもの、難しいものと感じさせてしまうのは、そう演出する人が悪いのではありませんか。アートを遠ざけないしくみをもっと大切にしたいと私は思います。

2人の棟梁の仕事力

自営業の絵師、そう自称して私は仕事をしてきましたが、ある日長男が「面白い話を見つけたよ。2人の男の人の物語なんだけど、2人目の人、お父さんぽいよね」と、ある漫画を私に見せてくれたのです。それは江戸時代の話でした。

2人とも腕の良い大工の棟梁を目指すのですが、1人は熟練した宮大工の所に弟子入りして腕を磨き、立派な宮大工職人になりました。もう1人は、いろんな注文を1人で受け、苦労しながらも様々な注文をこなしていくのです。中には無理難題を言ってくるお客さんもいましたが、それらをやり抜いていくうちにどんな注文にも応じられるようになっていったのでした。パターン化された仕事にたけていくか、あるいはクリエーティブな仕事ができるようになるか。そんなテーマを投げ掛けている話でした。

どちらがいいかではなく、自分にとってはどちらが生きがいになるかという選択です。私は幼い頃、地面から水を吸い上げ静かに生き抜いていく植物が美しく、エネルギーに満ちて見えました。その生命力は人間と同じだと感じ、描かずにはいられなかった。私のように、強く引かれる道を追う。それも仕事を成す力の一つでしょう。(談)

アラン・ウエスト ●絵師。「繪処アラン・ウエスト」代表。米国ワシントンDC出身。カーネギーメロン大学芸術学部絵画科卒業。訪日で岩絵の具やニカワなどの日本画の画材と出会い、移住を決意。89年から東京藝術大学日本画科(加山又造研究室)で技法を学ぶ。99年アトリエ兼ギャラリーを構える。独自の作風で花鳥画を描き、掛け軸、版画、ついたて、びょうぶ、ふすま絵、扇子などの注文制作も多数手掛ける。
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