仕事力~働くを考えるコラム

就職活動

「どこにでも生きる道はある」
林 英哲が語る仕事―4

就職活動

今の歩みを肯定しよう

どんな選択も価値があります

自分が何に向いているのか、自分がいちばん分からない。若い時は誰もがそうじゃないでしょうか。僕の場合は人に押されるようにして、偶然、太鼓打ちになってしまったので、自分がこういう仕事に向いているのか、一生やっていけるのかと30代半ばを過ぎてもずっと不安でした。仕事は、海外公演を含め予想以上に頂いてはいましたが、内心では葛藤が続いていました。自分の人生はこれでいいのか、と。

そんな38歳の大みそか、正月のCD発売記念コンサートを控えて一人で年内最後の練習をしていた時です。1時間以上、一瞬も手をゆるめずに大太鼓を連打することを目標に打ち続けていたら、もうダメかと思うほどきつい最後の連打を通り越したあたりから、急に明るい光に包まれたような感覚になったのです。真っ白なまばゆい光が頭の中に満ちて、「全て大丈夫だ、これでいい」という誰かの意思のようなものが伝わってきました。それは、まるで探していた「回答」のようでした。

「自分はいまだに道に迷っているし、文明は泥沼に突き進んでいる。これでいいのか」。そう思った瞬間に「全ては理由があって起きている。お前は大丈夫だ、何の問題もない」と。まるで大きな宇宙意思に、自分の生き方を全肯定されたような気がしました。そして「ああ、助かった」と思いました。

おそらく、練習の極限状態の脳内で何かの力が働いたのでしょう。でも僕にとってはとてもリアルな体験で、これ以降、自分の人生を以前ほど不安に思わなくなりました。

美術家を目指していたのに太鼓打ちになった僕は、葛藤は多かったし、楽な道ではなかった。今仕事をしている人の中には、僕の若い頃のように迷い苦しんでいる人がいるかも知れません。でも、どんな人生も必然なのかも知れない。民俗学者・宮本常一先生の「人間はどんな道でも生きる価値がある」という言葉があります。人が生きようと決めた道には、必ず生きる価値があるのだと思います。

まず一歩、前に踏み出す

俳優のアンソニー・ホプキンスが、若い俳優の質問に答えるテレビ番組を見たことがあります。「僕は俳優になりたいけれど、やっていけるかどうか悩んでいます。助言を頂けますか」と問われ、ホプキンスはこんなふうに答えました。「悩むことは必要だ。全能の神にも悩みはある。でも、まず一歩を踏み出しなさい。そうすれば神が助けてくれる」。将来のことは名優にも分からない、でも一歩を踏み出せば、必ず誰かが助けてくれるから——。この言葉を思い出す時、僕はいつも泣きそうになります。自分の不安な歩みを、色んな人に支えてもらったことを思い出すからです。

一歩、一歩と走る42.195キロのフルマラソンは、ゴールまでの距離を考えると気が遠くなります。20代の時に僕はボストン・マラソンに5年連続で出場し、ゴールで太鼓を打っていたのですが、あの電柱まで、あのガードレールの所までと思いながら走っていました。仕事もそうなのだと思います。目の前のつらい仕事も、とにかくあそこまではやる。その先に、ゴールもチャンスも待っていますから。(談)

はやし・えいてつ ●太鼓奏者。1952年広島県生まれ。11年間のグループ活動を経て82年からソロ。84年初の和太鼓ソリストとして米カーネギーホールにデビューし、2000年にはベルリン・フィルと共演。独自の奏法を築き上げ、芸術選奨文部大臣賞などを受賞。近著『あしたの太鼓打ちへ』(増補新装版)が刊行予定。2018年1月3日(水)に大阪の森ノ宮ピロティホールにて「新春コンサートスペシャル2018」を公演予定。
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