仕事力~働くを考えるコラム

就職活動

「行動が仕事力の真ん中」
白石 康次郎が語る仕事―4

就職活動

君の生き方で仕事を選べ

体験こそ能力になる

僕は危機を感じていることがあります。それは知識やデータを重要視しすぎる今の社会です。例えば、クロールの泳ぎ方はインターネットでいくらでも検索できます。動画でも詳しく教えてくれますね。しかしそれでプールに飛び込んだとしても、25メートルも泳げない。あるいは、英語を完璧に学んだはずなのに、外国人が激しくクレームをつけてきたら頭が真っ白になって一言も返せない。やはり知識に血を通わせるには、体験するしかありません。

さらにコンピューター社会では、極端なことを言えば、小学生と教師が瞬時に同じ情報を手にできてしまうのです。それなら教師の価値は何か。教師には、自分なりの考えで子どもたちを指導してきた失敗や成功の経験があるはずです。これからいろいろな悩みやつまずきにぶつかるであろう子どもたちに、自分なりの体験を伝えられたら、「子どもを応援したかった」という原点に気づくと思う。そこから仕事の力はついていきます。

仕事は生き方です。情報や給料や、周囲の意見を元にして選ぶものではない。もっと、自分の人生をどんなことに活(い)かしていきたいか、何をして熱くなりたいか、と思いや考えに自分の照準を合わせて行動してみて欲しい。本当に個人が様々な仕事をできる時代ですから、人の話をうのみにせず、自分の心で判断していきませんか。

僕は、地球という自然を相手にしたいと強く思って生きてきて、海洋冒険家という仕事を手に入れました。これは人に「冒険」という夢を与えるから成立している仕事だと思います。また、例えば野球選手なら素晴らしいプレーをしてファンの気持ちを熱くするのが仕事ですよね。不思議なことに、人はちゃんと居場所を探し当てる。会社で上司の悪口を言いながらもずっと居続けている人は、きっとそれが合っているからです(笑)。

ゲーテからの応援

くじけそうになることが何度もあるのが人生です。僕も、億を超える資金を集めることや準備に苦慮し、航海を諦めたことが何度もあります。その度に頭をよぎるのは、ドイツの詩人ゲーテの言葉でした。「大切なことは、大志を抱き、それを成し遂げる技能と忍耐を持つことである。その他はいずれも重要ではない」。シンプルです。 

うまくいかない時には潔く気持ちをゼロにリセットし、僕は、この大切な三つを考えました。「大志」は萎(な)えていないか。もっともっと磨くべき「技術」はないか。そして「忍耐」はできているか。かの偉大な詩人だって、挫折は数多く体験したのでしょう。海の上で長い間たった一人になると、脳裏に浮かぶのは、時代を超えても真実が伝わる言葉や、命懸けで生きた人の後ろ姿、心の底からの人の誠実さです。

僕は、生き切るという言葉が好きです。自分の気持ちをはっきりさせたら、飛び込む。さんざん泣くことになるだろうけれど、大志が熱を帯びて人に伝わる日を信じます。打算ではなく、自分らしい真剣勝負で進んでいきたい。

11月6日、フランスから僕は、単独無寄港無補給世界一周ヨットレース「ヴァンデ・グローブ」にアジア人として初めて出場します。たった一人海の上で泣いたりもしそうな長い航海ですが、僕もあなたを応援しています。(談)

しらいし・こうじろう ●海洋冒険家。1967年東京都生まれ。神奈川県立三崎水産高等学校(現・海洋科学高等学校)卒業。94年に26歳でヨット単独無寄港無補給世界一周の史上最年少記録(当時)を樹立後、多くのヨットレースで活躍する。2006年に単独世界一周ヨットレース「5オーシャンズ」クラス・で2位。08年フランスの双胴船クルーとしてサンフランシスコ~横浜間の世界最速横断記録を更新。今年11月に単独無寄港無補給の世界一周ヨットレース「ヴァンデ・グローブ」に出場予定。著書『精神筋力』ほか。
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