仕事力~働くを考えるコラム

就職活動

「全ての仕事は人間のために」
石黒 浩が語る仕事―2

就職活動

ロボットは人の鏡になる

機械は人間の延長だ

人間の定義、猿との違いは「道具や機械を使う」ことです。だから人間は面白い。道具や機械、すなわち技術によって、自分をそれ以上の能力に置き換えたいという望みは止まらないからです。僕たちは家事労働を助ける家電品や、交通機関などの機械と一緒に暮らしています。本来の人が持つ能力をヒントにし、その機能を拡張してきて、現在すでに生活の中で生身の体だけで何かをすることはほとんど無くなりました。おそらく9割以上は、技術に頼っています。そして僕たちの歴史は、これからも人間として「機械との融合を図る」という道へ進んでいくことは間違いありません。

逆に言えば、技術は人間本来の能力からヒントを得て作られるので、自分たちの欲求の具現化でもある。だから、どの部分を機械に置き換えられるかという追求をやめない。自分とは何かということを機械に置き換えて客観的に説明するために、人類が生き延びている間は技術革新が終わることはありません。

例えば、事故などで足を負傷したら義足という技術が補ってくれる。車椅子に乗ってスポーツもできる。その人の体の一部が機械に置き換えられても、人間らしさは1%も失われません。むしろその新しい姿で前へ進んでいく様子はカッコいいと思います。ということは、すでに「人間の要件」から生身の体は要らない。体が機械に置き換えられても人間だということではありませんか。

不思議なことに、僕の話を聞いた人はその時はこういう意見を受け入れるのに、一歩家へ帰ったら全然受け入れなくなる。もし家族が事故で手足を失ったら、きっと大騒ぎし落胆するでしょう。それが社会の考え方の壁であり、僕が怖いなと感じるところですね。事故に遭った本人は人間としての要素を何も失っていないのに、周囲がそこで思考停止して人としての本質を見ないのは、それこそが人間らしくないと思います。

自分のことは外から知る

僕が自分自身にそっくりなアンドロイド(人間型ロボット)を製作した時、「自分のことが自分で認識できていない」と実感しました。撮影された映像で初めて「ああ、こうなのか」と分かる事実。顔だって普段は鏡で左右反対のものしか見ることができないから、あれっ、という違和感がありました。製作過程でロボットの動作が「石黒先生らしいです、そっくりです」と言われ、みんなうなずいているのに僕だけが、その「らしさ」を知らないのです。

テレビ番組でタレントのマツコ・デラックスさんのアンドロイドを製作した時も、初めてロボットに対面したご本人の第一声は「え~、私ってこんな?」という違和感でした。でも間もなく、ごく自然に接するようになっていらっしゃった。人は自分を正確に知らないけれど、やはり自分を知りたがっている。僕の体験も含めて、周囲に、そして社会に見えている自分こそが自分の「存在」というものなのだと感じました。

自分のことが分からないという状況は、生活の中の様々な場面にあります。仕事でもあると思います。客観的に外から指摘されるまで暗中模索なのです。(談)

いしぐろ・ひろし ●1963年滋賀県生まれ。工学博士。大阪大学大学院基礎工学研究科システム創成専攻教授(特別教授)、ATR石黒浩特別研究所客員所長(ATRフェロー)。ヒューマノイドやアンドロイド、自身の容姿に酷似した遠隔操作型ロボットのジェミノイド、最低限の人間の特徴を有するテレノイドなど多くのロボットを開発している。大阪文化賞受賞。著書に『人と芸術とアンドロイド』『ロボットとは何か』ほか多数。
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