仕事力~働くを考えるコラム

就職活動

「全ての仕事は人間のために」
石黒 浩が語る仕事―3

就職活動

便利なら人は幸せか?

社会で暮らすロボットへ

僕たちの社会は、どれだけ技術に助けられているか分かりません。ロボットの研究当初、僕は現状を画像センサーで捉えるコンピュータービジョンや、自動搬送車の研究をしていました。そういうロボットはすでに工場で作業の効率化に大きく貢献しています。僕の研究対象としてその段階が終わった頃、次はどこへ行くかと考えた。それが「自分たちが暮らす社会」である街の中、ショッピングセンター、家庭や施設などへロボットが出ていくことでした。

僕が作りたい世界は、人とロボット、またロボットだけでなくコンピューターや様々なセンサー、多くの技術が人の世界と融合していく未来なんです。人間らしさを失うことなく融け合って暮らせることが大切で、技術に助けられて仕事や暮らしがただ楽になるだけなら、受け身になってしまいます。技術に依存して、労働も減って便利になれば幸せなのか。人間の感情や求めるものはそんなに簡単ではありません。だからそういうものをもっともっと知りたいと痛感しています。

例えば、わざと失敗することをプログラミングしたロボットもあっていい。頼んだ通りにしないとか(笑)。実験でヨチヨチ歩きの赤ちゃんロボットを製作し、すぐ転び、どこかに上がろうとしてもよじ登れない動きにしたら、そばで見ていた人が思わず駆け寄って手を貸そうとするんですよ。高齢者が暮らす施設などでは手厚いケアを受けますが、やってもらうことが当たり前の日常にそんな赤ちゃんロボットが居たら、人のために何かしたいという本来の姿が引き出されるでしょう。「できないことは助け合う」。人間はそうやって互いに関わり、支え合って生き抜いてきたわけですから、人とロボットとの間にもそういう関係を築きたいと思うのです。

未来は自分で引き寄せよ

僕が、この未来の仕事を信じて進もうと思ったのは、パーソナルコンピューターの概念を作ったアラン・ケイとの出会いからです。まだ自分で「ロボットで社会を変える」とは考えていなかった頃、彼の講義を聞いて公開で質問をしました。「ロボット社会が来ると思いますか?」と。その場でアランは無難な答えをしましたが、直後に個別に呼ばれ、「君の言っていることは間違っている」と言われたのです。「未来はやって来るのではなく、君の考え方と技術でやって来させるのだ」と。やってやろう、と覚悟が決まる言葉でした。

その後僕は、人間とは何かを知らないとロボットのサービスで貢献できる研究は難しいと考え、認知心理学や脳科学、哲学など様々な分野を学び、自分の構想も周囲に語り始めました。しかし、人とロボットの共存を目指す研究者は、やはり前例がなく変わっているようで、各分野の壁を越えての研究はスムーズではありません。アランが言うように、諦めないで引き寄せるべき仕事なのです。

あなたは、この世の中は誰かが作っていて自然発生的に未来が来ると思っていませんか。今自分の手掛けている仕事が直接影響するわけではないと、いつもの業務に安住していませんか。僕は、昔と違って、世の中は10年、20年で常識をひっくり返せると思っています。自分のスキルで、自分の考え方で引き寄せる未来はありますよ。(談)

いしぐろ・ひろし ●1963年滋賀県生まれ。工学博士。大阪大学大学院基礎工学研究科システム創成専攻教授(特別教授)、ATR石黒浩特別研究所客員所長(ATRフェロー)。ヒューマノイドやアンドロイド、自身の容姿に酷似した遠隔操作型ロボットのジェミノイド、最低限の人間の特徴を有するテレノイドなど多くのロボットを開発している。大阪文化賞受賞。著書に『人と芸術とアンドロイド』『ロボットとは何か』ほか多数。
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