仕事力~働くを考えるコラム

就職活動

「仕事は人生を楽しくする装置」
川村 元気が語る仕事―1

就職活動

アクシデントが人生を動かす

仕事を面白くするにはどうすればいいのか

大人になると、生きている時間の大半を働いて過ごします。だとしたら自分の好きなことを仕事にした方が人生も楽しくなるだろうと思い、映画会社へ就職しました。

20代はがむしゃらに働き、一つひとつ仕事を覚えていく過程が面白かった。でも30代になってふと考えたのです。仕事を更に面白くするにはどうすれ ばいいのか、これから立ちはだかるであろう大きな壁はどう乗り越えていけばいいのか。その突破口を見つけたくて昨年、第一線で活躍する12人の「巨匠」た ちに話を聞き、『仕事。』という名の対談集としてまとめました。今なお現役で在り続ける彼らの若かりし七転八倒時代を聞くことで、僕ら世代がどう仕事に向 き合えばよいのか、そのヒントが見えてくる気がしたのです。

共通していたのは「安全な道にはチャンスは転がっていない」ということ。例えば倉本聰さんはNHKの大河ドラマを突如降板しています。脚本家としては致命 的な状況だったと思います。でも、それで北海道へ移住したからドラマ「北の国から」が生まれたわけです。人間は自らわざわざ選んで厳しい道を行けないも の。とは言え、アクシデンタルに起きたことでしか人生は面白く動かないということを、巨匠たちは理屈抜きに信じている感じがしました。

考えてみれば、大事な転機って頭で選んで決めたことではないことが多いと思うんです。仕方なくそうせざるを得なくてやったことが、その人の人生をプ ラスに変えていく。僕は「失敗から学べ」という発言がすごく無責任だと思っていました。だって、失敗をわざわざ選べないし、それをやったからといってリカ バリーできる時代でもないので。

でも、そうは言ってもむちゃな状況は絶えず人に起こるわけで、いやが応でも失敗はする。だったら、それこそがチャンス、急に飛び込んできたアクシデ ントや失敗にこそ新しいことが始まる可能性があるんだと、きれいごとではなく思えるようになりました。だから、あえて自分が分からないものに手を伸ばし、 びっくりしたり混乱したりしながら仕事をしたい。今はそっちの方が断然面白い気がしています。

まねて学んだ先にオリジナルがある

対談では山田洋次さんに「まねることで学べ」、坂本龍一さんに「オリジナルであるために学び続けろ」と言われました。いきなり白紙に自分らしさを描 くことはできない。塗り絵みたいにまねてなぞって学ぶしかないわけです。でも、どこかで絶対はみ出してしまう部分がある。それが自分の色、すなわち自分の オリジナリティーになる。特に他人の生き方や思考をなぞることで、「自分はこういうことを大事にする人間なんだ」ということが浮かび上がってきます。

僕は映画はもちろん、小説、アニメ、音楽、アートなど何でも好きで、何にでも興味を持ってしまうのですが、その分、何か一つ突き抜けてこだわるもの がない。それがずっとコンプレックスでした。でも、全く分野の異なる巨匠12人と楽しく対談できたのは「何でも好きだ」という好奇心と、総合芸術と言われ る「何でもアリ」の映画が僕の「実家」であるお陰。そういうアイデンティティーを自覚でき、改めて映画を仕事に選んで良かったなと思いました。

かわむら・げんき ●映画プロデューサー/作家。1979年横浜市生まれ。上智大学文学部新聞学科卒業後、東宝(株)へ。映画『電車男』『告白』『悪人』『寄生獣』などを製作。2011年には優れた映画製作者に贈られる「藤本賞」を史上最年少で受賞。12年発表の初小説『世界から猫が消えたなら』は発行部数80万部を突破し、映画公開が予定されている。近著は2作連続の本屋大賞ノミネートを受けた小説『億男』と、山田洋次や坂本龍一ら第一線で活躍する12人との対話集『仕事。』。
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