「脳に汗をかき、一心に考えよ」
森川 亮が語る仕事―2
それはユーザーに刺さるか
スキルを塩漬けにしない
苦手な分野に配属されても、そこで認められるまではやってみる。そこから次のやりたい仕事を目指して欲しいと思っていますが、踏ん張るには「誰のためにどんな仕事をやりたいのか」という意識を自分なりにはっきりさせる必要がありますね。
例えば僕たちの日本社会では、技術文化がとても強い。それが現在まで世界での競争力にもなってきたわけですから、企業はさらに高いハードルを設定して技術開発に磨きを掛けているのが現状でしょう。エンジニアや研究員が郊外の研究室で日夜頑張っている。しかし、その高い技術をどうやって商品開発に活(い)かすか。どんな問題解決ができるのか。言わば宝を塩漬けにしている会社も少なくないと思います。それはあなた個人も同じです。認められる仕事力を身に着けたら、どう社会へ活かすのか、考えなくてはならない。
多くの人が勘違いしているのですが、「やりたい仕事」というのは、好きな物事の延長ではなく、自分の力で社会に貢献できる仕事だと僕は思います。取り組んだら5年後に社会はどんなふうに変えられるか、それを自分ができるか、ビジョンを明らかにしていくこと。必要なのは「自分のユーザーは誰か。その人のニーズを満たせるか」を徹底的に絞り込む粘り。あなたが見つけたその課題を実現するために、どういう技術やサービスが必要か、どうすれば具現化できるか。企業の中でも提案を始めればいい。そうやって、社会につながる試みをすることです。
誤解を恐れずに言えば、こんなふうにマーケティングやビジネスに関心を持って仕事をする若い人の前に、上司は立ちはだからないで欲しい。新しい社会のニーズを体感している社員の思い掛けない発想は、きっと次の芽になるからです。
もっと想像力を絞る
日本はまだ、ビジネススピードに対しての感覚が鈍いと僕は感じています。時間と経費を注いで、目的を明確にせず高い技術を開発するのはなぜでしょうか。例えばファストフードのハンバーガー店の厨房(ちゅうぼう)にフレンチのシェフが入り、高い技術でハンバーガーを1時間掛けて作ったとして、それがお客様のニーズですかという話です。そんなバカなと笑ってしまうようなチグハグな状況が、日本のビジネスの動きを遅くしてはいないでしょうか。
それはやはり、ユーザーの求めるものを見極める努力が足りないからだと思います。質の高い技術に特化するなら、ヨーロッパの企業のようなブランド化を徹底する必要があるでしょう。アジア諸国をターゲットにするなら、早く多くの製品を提供する方が貢献になる。ターゲットと定めたユーザーが、今この時間なら何を食べ、どこへ出掛け、どんな人と会い、何を話しているか。ポカッと空いてしまった10分間には何をしたいだろうか。切羽詰まるのはどんな時だろうか。いろいろと思い巡らせてみてください。仕事に関わるほとんどの人が、「誰のために」という尖(とが)らせ方をしていない気がします。
僕は、仕事力の一つはリアルな想像力だと思います。自分が決めたマーケットに存在する、リアルなただ一人の本音を知る必死さ。相当真剣に頭に汗をかいてつかまえた本音こそが、ビジネスの広がりを生む種なんです。(談)