仕事力~働くを考えるコラム

就職活動

「日本のスタンダードを創る」
重松 理が語る仕事―2

就職活動

目が利くという競争力

「得手に帆を揚げる」は不要

1970年代半ばにセレクトショップを立ち上げた私は、雑誌情報などを元にアメリカ西海岸や、ニューヨーク、ボストンなどの東部で洋服や、ファッションなどの雑貨を買いつける仕事に飛び回り始めました。時にはその額が年に億単位に上っても、本物でなくてはとこだわり続けました。

アメリカでは西海岸と東海岸で、気候も都市の文化も大きく違います。とは言え、スタンダードとなる装いには、一流大学群アイビーリーグの卒業生が社会人となる時に選ぶトラディショナルな服があり、それとは別のリラックスな上質カジュアルもある。それと米軍の放出品、サーファーのファッション、そして誰もが品質を信頼する山登り用などのアウトドア服で大きな潮流は網羅されます。それから私は、素晴らしいトラディショナルを求めてヨーロッパも歩き回りました。

この中から、今の日本人は何に心を引かれて買ってくれるかを見極める。その目利き力が私たちの勝負を左右するものでした。スタンダードの基本の中に、時代のトキメキ感というか、流行の要素が入っていないと売れないけれど、それだけを追い掛けると足をすくわれます。バランスが非常に難しく、それが私にできたのは10代の頃から日本で数限りないアメリカの服を買い、自分で着てきたからだと思います。

「服好きな虫」は天からのギフトだったのかも知れません(笑)。とにかく、アメリカの豊かな文化に憧れ、中でも好きなものがファッションだと10歳ごろに分かったから、その職に近づいていく時間が十分にありました。

早く見つけて、早く素直に動き出せば、かなり幸福な仕事のスタートが切れるのではないでしょうか。放っておいても興味のあることは止まらないので、知識や体験の蓄積が圧倒的に多くなります。するとその領域で自分が立てそうな隙間というか、スペースが見えてくる。そこにマーケティングの力がついてくるということです。

違う価値観を持つ格好良さ

私は「自分らしさ」を知っていることが、人としての格好良さだと思っています。最新のIT機器を持っているのもいいけれど、自分が身に着けるもの一つひとつに強くコミットする価値観が大切です。

例えば社会で仕事をする時間が長くなるうちに、「洋服なんかで差をつけてどうする」と考える人が増えているような気がしますが、私は、自分らしく着こなしている人に「仕事ができる力」を感じます。それは、周囲の常識にのみ込まれず、うまくセルフプレゼンテーションする術(すべ)を熟知していると感じるからです。

自分らしさをつかむには、書道の上達の道筋である「楷書・行書・草書」のように、まず本流のお手本を一つしっかり試してみて、そこから足したり削ったりしながら自分らしい崩し方、伝え方に至ることです。装いしかり、仕事も、人とのコミュニケーションもそうですが、どこかで聞いたようなことを言い、誰かの受け売りだなと分かるうちは、まだまだ未熟(笑)。

それが最初に見えてしまうのが身に着けるものだとするなら、例えばスーツが「グローバルな言語」と呼ばれることがあるのも納得がいくのではありませんか。(談)

しげまつ・おさむ ●(株)ユナイテッドアローズ名誉会長。1949年神奈川県生まれ。明治学院大学経済学部卒業。婦人服メーカーを経て76年にセレクトショップの草分け「BEAMS」の立ち上げを企画し、新光紙器(株)に入社。後に(株)ビームス常務取締役就任。89年(株)ワールドとの共同出資で(株)ユナイテッドアローズを設立し、代表取締役社長に就任。2004年代表取締役会長に就任後、11年社長職への復帰などを経て14年から現職。
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