林先生の知のアラカルト 〜かしこく生きるコツ〜

Vol.3 伝え方のコツ

予備校講師として受験生から絶大な支持を集める一方、その博識ぶりでテレビでも大人気の林修先生。そんな知の巨人の“かしこく生きるコツ”を探る連載3回目のテーマは“伝える”です。
会議やプレゼン、ビジネスや仲間内の会話など、コミュニケーションの場面はいろいろ。そんなとき、どうしたらわかりやすく相手に話を伝えることができるのか。予備校、テレビ番組、講演会など、さまざまな場で聴衆に話す機会の多い林先生に、「伝え方のコツ」をお聞きします。

大切なのは「目と耳」

写真 林修

日々の生活の中で、人に話をわかりやすく伝えなくてはいけない場面は少なくないですよね。話し方教室に通うなどしてスキルを磨いている人もいるかもしれません。ただ、残念なことに、コミュニケーションのコツを誤解している人が多いのも事実だと思います。

コミュニケーションで大切なのは、実は目と耳なんです。相手がどういう言葉を使っているか、どういうリズムで話すか。人は皆、話すときにどうしても自分の話し方が基準になってしまうものです。ですから、相手に伝えるために重要なのは「相手に合わせること」だと考えています。

たとえば、常に結論を先に言うタイプの人には、結論から言わないと相手をイライラさせることになります。一方、順序立てて説明をする傾向にある相手には、一から理論的に積み上げる話し方をしないと、聞く気がなくなるという場合も少なくありません。メールも同じです。僕自身は長いメールを好みませんが、時候のあいさつから始まる丁寧なメールを書いてくる人に対して、簡潔すぎる書き方で返信すると、「礼を欠く人だ」と思われてしまうでしょう。同様に、簡潔なメールを書く人に、長々とした前置きのあるメールを送れば、「要領を得ない人だ」と思われる可能性が高くなります。

写真 林修

講演会など、聴衆を前に話をするときは、最初の5分、皆さんがどのようなことに関心を持っているのかを探りながら話すようにしています。そして、反応に合わせて話の内容を少しずつ変えるのです。用意してきたネタをすべて話し切ったとしても、それが伝わらなければ意味がありません。それより、自分の目と耳で相手をよく観察し、何をどう話せば相手に響きやすいのかを見極め、用意してきたストックから取捨選択して話したほうが確実に伝わります。「大工と話すときには、大工の言葉を使え」。哲学者ソクラテスの名言とされていますが、まさにこの言葉に尽きるのではないでしょうか。

「見出し」をつけて話す

写真 林修

新聞は全体像をつかみやすいメディアです。1面から、政治、経済、国際、スポーツ、文化、社会……と安定した秩序があるからこそ、何の情報がどこにあるかがわかり、安心して読み進めることができる。例えるなら身近なスーパーマーケットみたいなものです。入り口近くにまず野菜売り場があって、次に肉や魚のコーナーがあって……常に同じ配置になっているから落ち着いて買い物ができる。それと同じ感覚だと思います。

僕は、書類を作成するとき、最初にフォーマットをつくる習慣があります。総論と各論に分け、そこにコンテンツを配置していくのです。僕の仮説ですが、これは、子どもの頃から紙の新聞に親しんできた世代ならではの習慣かもしれません。デジタルネイティブの若者たちの中には、論文を書くとき、情報を無秩序に配置する人がいます。インターネットからバラバラに入ってくる情報に慣れると、一定のフォーマットに収めるという意識が希薄になるのでしょう。

「何を伝えたいのかわからない」と言われてしまう人は、新聞の秩序や構成、そして見出しをヒントにしてみたら良いと思います。新聞記事には必ず見出しがありますよね。会話の中にも見出しを立てるよう意識して、テーマを明確に提示するのです。また、いくつかの情報をセットで伝えなくてはいけない時は、記事がいくつもある状態だと想定してみてください。そして、最も大事なことが1面になるように組み立て、一つ一つの話には見出しをつける。そうした心構えで向き合えば、きっと伝わるはずです。

写真 林修

林先生流 伝え方のコツ おさらい

大切なのは「目と耳」

「見出し」をつけて話す