さまざまな媒体から情報が得られる現代。これから社会に出る人や若手ビジネスパーソンの中には、「なぜ新聞を読まなくてはいけないの?」と思っている方も多いのでは。「ビジネスパーソンの視点」では、各界でトップを走るビジネスパーソン・経営者の方々に、新聞を読む理由、新聞の活用法、さらには新聞に関するエピソードなどを詳しくお聞きします。
今回は、「よなよなエール」をはじめ個性豊かなクラフトビールで知られる株式会社ヤッホーブルーイングの井手直行社長です。地ビール人気の落ち着きとともにどん底の時代を経験し、その後、ネット通販を活用してV字回復を成し遂げた井手社長に、日々の新聞との付き合い方と活用術をお聞きします。“あの”ビールの名前が誕生した背景にも、実は新聞の存在があったそうですよ。
「ビジネス×新聞」
今回の活用ポイントは?
- 何げなく読んだ記事が
ビジネスのヒントに - ビジネスに役立つ話題を
広く拾うには一般紙がおすすめ - 個性が選ばれる時代、
主張や「らしさ」に注目

記事で知ったミスマッチの妙に
「これだ!」
新聞の記事に窮地を救ってもらったことがあります。ヤッホーブルーイングでは、「よなよなエール」がヒットした後も、「東京ブラック」「水曜日のネコ」「僕ビール、君ビール。」など、ネーミングにこだわった新製品を世に送り出してきました。
ラインナップの拡充が急がれていた2007年ごろ、「インディア・ペールエール(IPA)」というスタイルの苦みの強いビールをつくったのですが、これにどのような製品名をつけるかで苦悩しました。IPAは18世紀末、植民地政策でインドに派遣されていた英国人のために、長い輸送時間に耐えられるよう防腐効果のあるホップを大量に使ってつくられた、苦みの強いビールです。
営業のリーダーだった僕は「インド」という単語を使いたくていろいろ案を出したのですが、当時の社長・星野佳路(現・星野リゾート代表)が首を縦に振りません。ビールの味はできているのに製品化できないという期間が、なんと1年も続いたのです。
そのとき大きなヒントになったのが、新聞の記事でした。当時、『ホームレス中学生』(田村裕著)と『超バカの壁』(養老孟司著)という2冊の書籍が売れていました。「2つの異質な単語、相関関係のないものを組み合わせることがアイキャッチになり、人々の興味をそそる」と論評する記事を読んだのです。「ホームレス」と「中学生」、「バカ」と「壁」。言われてみれば親和性はありませんよね。
僕は「これだ!」と思ったんです。このミスマッチに目をつけて考え出したのが「インドの青鬼」という名前。ホップの青々しさを示す「青」、苦みの強さを表す言葉として「鬼」を思いつき、そこからデザインも決まりました。こうして、味の完成から1年を経てようやく発売にこぎつけたのです。
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朝はざっと、夜じっくり、
出張中の分はまとめ読み
新聞は、小学校のころから読んでいましたね。当時はスポーツ面のほか、読んだとしても社会面くらいだったと思いますが、中学、高校と年齢が上がるにつれ、政治面などへと読む範囲が広がっていきました。両親とも新聞が好きで、朝刊も夕刊も定期購読していたので、その姿を見て、僕も自然と手に取るようになったのだと思います。
3度目の転職でヤッホーブルーイングに入社したのですが、入社当時は地ビールが人気で、当社が販売していた「よなよなエール」の売り上げも絶好調。ところがブームが去ると一転、売り上げは前年割れが続き、営業のリーダーだった僕は、通信教育を受けるなどして、あらためてビジネスの基礎を勉強しました。マーケティングや会計、事業戦略についての理解が進むにつれ、新聞を読んでいてもその分野の記事に自然と目が行くようになったのを覚えていますね。
経営を任されるようになった今も、新聞には必ず目を通します。朝20分くらいでざっと見出しを読み、自分のビジネスに関係しそうな業界の動きをチェック。引っかかった話題は、移動中などにネットニュースを活用して深掘りすることもあります。さらに、仕事を終えて帰宅し、子どもたちが寝た後に、朝気になっていた記事を30分から1時間かけてじっくり読みます。出張で家を不在にするときにも、妻に頼んでとっておいてもらい、必ず目を通すようにしています。
経営者になってからは時間の都合もあり、今は経済紙しか定期購読していませんが、広く話題を拾うには一般紙がよいでしょう。本音をいえば、一般紙も含めて何紙も読みたい。出張先のホテルなどで読む機会が多いのは、やはり一般紙ですね。朝日新聞で好きなのは「トレンド実感」のような記事。BtoC(消費者向けビジネス)を手がけているので、流行や世の中の動き、それについての解説は、非常に役に立ちます。
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世の中の動きを知ることは
ビジネスパーソンに必要不可欠
新聞は、限られた時間の中で世の中の動きを知るのに、実に便利なツールではないでしょうか。ネットニュースは、ピンポイントで情報を得るには都合がいいし、即時性にも優れていますが、世の中全体を見渡すなら、紙の新聞が圧倒的に便利。何しろ、広げた瞬間に一度に情報が目に入ってくるのです。しかも見出しの大小で価値の高低もわかる。興味のあることだけではなく、その近くにある記事にも目が行き、「こんなこともあるんだ!」と気づくことができるのも新聞のメリットです。
この会社に入社して僕が最初に就いたのが営業職でしたが、営業先では何が話題になるかわかりません。他の企業のこと、事件や流行、大企業の人事異動など、どんな話題が出ても、新聞に目を通しておけばひと通りのことは頭に入るので、話を合わせることができます。話が盛り上がれば、ビジネスの話も進みやすいですよね。先日、楽天で役員をされていた旧知の方と偶然会った際も、新聞の人事異動欄で、その方が関係会社の社長に就任することを読んでいたので、その話題で大いに会話が弾みました。
今、若い人たちとも話す機会がありますが、人事に限らず、今ニュースになっている世の中の話題で会話が広がらないと、「あれ?情報収集をあまりしていないのかな」と疑問符が浮かんでしまいます。ビジネスパーソン、特に営業職にとって、社会の動きを深くなくても一般的なレベルで知っておくことは不可欠なことだと思いますね。学生さんなら「新聞を読んでいる」というだけで、すごいなこの学生、もう社会に出ている、ぐらいに感じます。
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賛否両論あっていい。
新聞も個性が選ばれる時代に
僕は、10年以上前から、自宅にテレビを置いていません。だから新聞やネットの情報はますます重要になっています。
価値観が多様化している今、各紙それぞれもっと個性を出しても面白いのではないかと思います。朝日らしさを感じるのは、例えば1面のコラム「天声人語」。世の中の出来事の解説や切り返し方が無難ではなく独自性があって、大好きです。世の中では、朝日新聞は政権に厳しいといわれることもありますが、うちの会社がはっきりものを言う、賛否両論あっていいという社風なので、そこからすると朝日だってもっと主張して個性的であっていいと感じます。それぞれの個性が選ばれていく、そういう時代になっていくのではないでしょうか。
〈企業プロフィル〉
株式会社ヤッホーブルーイング

1997年創業。本社:長野県軽井沢町。「ビールに味を!人生に幸せを!」というミッションのもと、日本のビール文化にバラエティを提供し、お客様にささやかな幸せをお届けするという想いで、品質にこだわった個性的で味わい豊かなクラフトビールを醸造している。看板ビール「よなよなエール」は日本を代表するクラフトビールとして全国で販売。厳選されたアロマホップ「カスケード」と酵母のエステル香が織りなす柑橘類を思わせるアロマが特徴で、「家庭でも飲める手軽な本格エールビール」というコンセプトのもと毎晩(よなよな)飲めるエールビールとして誕生した。その他、「水曜日のネコ」「インドの青鬼」「僕ビール、君ビール。」といった高品質で個性豊かな製品が好評。