ビジネスパーソンの視点

新聞を相棒に。
記事の信頼性があなたの説得力を高める

株式会社wiwiw(ウィウィ)代表取締役会長/山極清子さん

PROFILE

新潟県生まれ。1969年美容部員として資生堂長岡販売入社、1973年Shiseido Cosmetics America Ltd.を経て資生堂の本社勤務に。21世紀職業財団に両立支援部事業課長として出向し1997年、本社に復職以降、男女共同参画、仕事と育児・介護との両立支援、働き方改革に取り組む。2010年より株式会社wiwiw社長執行役員、代表取締役社長を経て19年5月より現職。09~14年、立教大学大学院ビジネスデザイン研究科特任教授、経営管理学博士(立教大学)。現在、昭和女子大学客員教授。東京都人事委員会委員、長野県男女共同参画審議会委員、「みえの働き方改革推進企業」三重県知事表彰選考委員会委員。著書に『女性活躍の推進―資生堂が実践するダイバーシティ経営と働き方改革』がある。

さまざまな媒体から情報が得られる現代。これから社会に出る人や若手ビジネスパーソンの中には、「なぜ新聞を読まなくてはいけないの?」と思っている方も多いのでは。「ビジネスパーソンの視点」では、各界でトップを走るビジネスパーソン・経営者の方々に、新聞を読む理由、新聞の活用法、さらには新聞に関するエピソードなどを詳しくお聞きします。

今回は、日本を代表する化粧品メーカー、資生堂で初の女性人事課長に就任、以降20年以上にわたって女性活躍支援や働き方改革を推進し、現在は株式会社wiwiw(ウィウィ)会長の山極清子さんです。ダイバーシティ経営や働き方改革などに取り組む過程では、常に新聞が「伴走」してくれたと語る山極会長。なぜ新聞が大切なのか。その活用法も合わせてじっくりとお聞きしました。

「ビジネス×新聞」
今回の活用ポイントは?

  • 新聞記事の持つ説得力で
    ともに社会を変えていく
  • 朝30分、落ち着いて読めるトイレで目を通す
  • 知識に幅を。新聞もネットも両方活用する

ワーク・ライフ・バランスという言葉もなかった

資生堂が女性活躍支援、働き方改革に取り組み始めたのは、「ワーク・ライフ・バランス」という言葉もなかった1990年代でした。「ダイバーシティ」(多様性)の議論も、今でこそ「LGBT」「障がいのある人」「外国人」「高齢者」などを含む「インクルーシブ」の考え方にシフトしてきていますが、当時は「女性」にさえ企業のマネジメントが行き届いておらず、日本には手本となる事例がありませんでした。

その時代から、私に知識や力を与えてくれたのが、目標としていた欧米の事情を紹介する記事や、社会性のあるこれまでにない視点で書かれた論説など、視野を広げ視座を高めてくれる新聞です。wiwiwに在籍している最近でも、育児と仕事の両立に関わる個人の悩みや企業側の試行錯誤も、自分たちで調べるには限界があります。きちんとした取材に基づいた新聞記事が、個人や企業へのソリューションを提案する時に大いに参考になっています。

記者がていねいな取材と深い洞察力をもって書いた記事は、組織や社会を動かす時に大きな説得力を持ちます。資生堂の広報室消費者課勤務を通してメディアの力の大きさを知ったことから、女性活躍を推進する我々の取り組みを取材してもらうため、新聞社に積極的に働きかけました。記事はリーディングカンパニーとしての資生堂の認知度を世間で高めると同時に、社内に向けても大きなアピールになりました。1995年当時の資生堂は、社員の8割以上を女性が占める企業であるにもかかわらず、女性の管理職はわずか3.4パーセント。古い考えを持つ幹部も多く、男女共同参画を進めるのは容易なことではありません。取り組みが新聞記事として世に出て説得力を増し、社内で「女性活躍推進」に反対の声を上げる方々もやがて理解を示すようになり、お互いの主張に耳を傾けるきっかけになったと思います。

具体的な事例があります。「働き方改革」というかねてからの持論が今ほど注目されていない2007年のことです。資生堂人事部次長の当時、朝日新聞の取材を受け、「働きづめでは生活者の感覚を失い消費者の気持ちがわからなくなるから、会社にとっても損失。若い社員はもうそんな働き方に魅力を感じていない」との主張を、同年12月31日付の社説「希望社会への提言─仕事も生活も、そして子供も」で取り上げていただきました。発信した自説を、記者のみなさんが見識を持って受け止め、説得力あるものに仕上げ、みなが共有できるものになったのです。

私にとって朝日新聞はいつも伴走してくれる力強い存在であり、取材を通じた記者との交流そのものが知識や刺激を与えてくれるものだったと思っています。

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朝30分、落ち着けるトイレで新聞タイム

子供の頃から、新聞を読むのは、朝ごはんを食べるのと同じくらい当たり前の習慣でした。今は毎朝トイレで30分くらい時間をかけて読みます。静かだし、いちばん落ち着ける場所なんですよね。家を建てるとき、新聞を読みやすいようにひじ置きを作ってもらったくらいですから(笑)。

家では朝日新聞と経済紙の2紙に目を通し、会社で読むのはデジタル版。週末は、業界専門紙など、他に2紙をじっくり読みます。さらに、重要だと思った記事は切り抜いて、「女性活躍」「働き方改革」「ダイバーシティ」など項目別のボックスに入れておきます。10年分くらいはたまっているでしょうか。必要に応じてそこから記事を取り出すのですが、社会の変化もわかってとても興味深いですよ。大学教授である夫も、研究の資料として一緒に使っています。

複数紙を読むようになったのは、資生堂の福原義春名誉会長の影響が大きいです。私が資生堂本社で女性活躍支援や男女共同参画の推進、仕事と育児・介護との両立支援など「働き方改革」に取り組めたのは、当時、社長だった福原さんの強力なリーダーシップがあったから。その福原さんが常々口にしていたのが、「新聞を読みなさい。複数読んで俯瞰(ふかん)しなさい」ということでした。早朝に出社して、執務室で14紙を読んで、必要とあれば切り抜きをしていらっしゃった福原さんの姿を今でも覚えています。

知識に幅を。関心が広くないと本質は見えない

新聞を読んでいるかどうかは、話せばわかってしまうものだと感じています。入社試験でも昇格試験でも、新聞を読んでいれば知識を得られるような時事や経済、消費者に関する問題が取り上げられることが多いですよね。面接官の質問は、会社の業務に関することだけではありません。資生堂時代、採用面接や施策を立案する際に社内の関係者にヒアリングをする機会が多くありましたが、返ってくる答えで、知識の幅が測れました。

ビジネスパーソンとしてキャリアを形成していきたいのなら、自分の好きな分野の勉強だけでは不十分。全体を見たうえで得意分野を磨いていくことが大事です。そのためには、新聞の情報をインプットしておくのは最低限必要なこと。それからインターネットの情報や専門書の情報を融合すればよいのです。「働き方改革」を考えるときだって、会社員という立場だけではなく経営者という立場はもちろん、教員という立場など、関心の対象を広く持って考えないと、根幹を理解できず本質は見えてきません。新聞だけでもネットだけでもだめ、両方をうまく活用できるようになっていただきたいです。

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長い人生こそキャリア。情報で世界を広げて

老後の備えに2千万円が必要とされた「社会保障」のニュースに、いま一番関心があります。みんながそんな貯金をできるのか。キャリア形成というとビジネスの話でしょうと関心を持たない若者もいますが、学生、就職、育児、職場復帰、自分がどう生き、成長していくのかという「ライフキャリア」の視点をしっかり持ってほしい。若者はもちろん、どんな人にもキャリアに関心を持ってほしいのです。

仕事と子育てや介護の両立の真っただ中にいる人たちにとって、重要なのは情報です。両立が不安になるのは、必要な情報が不足しているからです。時間的制約のある人たちは特に、忙しさにかまけて新聞を読まないことがあるように感じます。新聞になじみのない若い人たちも同じ意識なのかもしれません。まず、新聞の1面の右端にあるインデックスを見る。そこだけで全体がつかめます。興味のある見出しを見つけたら、中の面にある当該記事を読んでみてください。ぜひそこから始めてみましょう。きっと世界が大きく広がるはずですよ。

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〈企業プロフィル〉
株式会社wiwiw(ウィウィ)

女性活躍と働き方改革を実践してきた資生堂で培ったナレッジや実践的成果を継承・発展させ、2000年より約20年にわたり全国1,000社以上の企業・団体にソリューションを提供。2012年以降、仕事と介護の両立推進事業も展開。現在、教育研修におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)の先駆けであるネットラーニングのグループ会社。ネットとリアルの力を融合して企業・組織のダイバーシティ&働き方改革推進を強力にサポート、企業の発展と持続可能な社会の実現に貢献していく。