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「ひととき」女性読者の投稿はどう変わった?
平成30年間の投稿をAIで分析!

朝日新聞社 文化くらし報道部/メディア研究開発センター

平成時代30年間のひととき約2万4千編を分析

新聞紙上での日本初の女性投稿欄として、戦後まもない1951(昭和26)年に朝日新聞で始まった「ひととき」。それまで、自分の思いを表明する機会がなかった市井の女性たちに熱狂的に支持され、現在まで70年もの長い間、続いています。日々つづられる500字ほどのエッセーは、その時々の世相や女性たちの心の機微を鮮明に映し出します。例えば新型コロナウイルスの流行が日本でも始まった2020年以降は、マスクの話題が頻繁に登場。

マスクが手に入らないパニックの中で、障害のある息子のためにマスクを届けてくれた友人への感謝を書いた「ドアノブのマスク」、電車で見知らぬ女性にマスクを譲られた経験をつづった「マスクの神さま」などの投稿が大きな反響を呼びました。

それでは、少し時間軸を長くとって、女性たちが心を寄せてきたことをみてみると、どのような変化があるのでしょうか。

今回、朝日新聞のデータベースを生かし、平成時代30年間のひととき約2万4千編について、AIテキストマイニングで分析を試みることにしました。

※平成30年間に掲載された「ひととき」の文字データを分析し「頻出単語」から作成したワードクラウドのイメージです。

平成を10年ごとに見ると…

調査は、朝日新聞社メディア研究開発センターが担当。新聞社がもつ豊富な記事や写真を生かした技術開発で、社内外への貢献を目指す部門です。

平成30年間のひとときを読み込み、10年ごとに、前期(1989~98年)・中期(99~2008年)・後期(09~19年)とし、その時期に特徴的に使われる言葉や、頻出する言葉をみてみました。

※平成30年間に掲載された「ひととき」の文字データを分析し「特徴語」から作成したワードクラウドのイメージです。

まずは、ほかの時期に比べて、その時期に使われることが多い言葉(特徴語)です。
【前期】人権、デモ、公害、体罰、冷夏、助産婦、パラリンピック、好景気、プリクラ
【中期】認知症、要介護、パラサイト、ひきこもり、狂牛病、ミレニアム、ブログ
【後期】スマホ、アラフォー、イクメン、サプライズ、放射能、筋トレ、ヘアドネーション

前期では、まだ許容されていた学校現場での「体罰」への疑問、中期では2000年に始まった介護保険に関連した「要介護」や「認知症」、後期では東日本大震災による原発事故を受けた「放射能」などが挙がってきました。プリクラ、ブログ、スマホなど、身近なはやりものも織り込まれています。

次に、よく使われている語句である「頻出語」をみると 「母」、「自分」、「娘」、「息子」などの身近な人が時代を通して登場します。

その中でも、出番の多い「夫」という言葉について、平成の前中後期でどのような変化があるか、調べてみます。

表は、「夫」と共によく使われる形容詞の変遷です。

前期で最もよく使われたのは「多い」でしたが、これは「車で移動することが多い夫」のような使い方があるから。続く2番目は「寂しい」でした。
ほかにも、帰宅が「遅く」、仕事が「忙しい」のが、この時期の夫の姿であることがうかがえます。

実際のひとときをみてみましょう。

【前期】『寂しい』と『夫』
◎ひととき)帰り遅いパパに願い 1995年10月

平成中・後期になると「寂しい」は順位を下げ、代わってトップに来るのが「うれしい」です。また、前期では圏外だった、「優しい」「おいしい」も中・後期で出てきます。

【中期】『うれしい』と『夫』
◎ひととき)オムライスのハート 2003年10月

夫が仕事から生活の場に進出し、家庭で食事を共にし、子どもにも関心を向け、喜怒哀楽も共にする存在になってきたことが読み取れます。

同じ文脈で使われる言葉を分析

次に、ある言葉と同じ文の中か、近い文脈で使われている別の語句を選び出す、AIの手法(通時的単語埋め込み)で調べてみることにします。これは、ターゲットとした単語の「周りにあるほかの単語」に注目するやり方で、周りの数単語から似ている言葉を、AIが選び出したものです。

※平成30年間に掲載された「ひととき」の文字データを分析し「夫と近い文脈で使われている単語」から作成したイメージです。

この分析でも、仕事に行きっぱなしだった夫が、家族の身近に戻ってきている傾向が読み取れます。

また、「幸福」の変遷も、たいへん興味深い結果でした。

※平成30年間に掲載された「ひととき」の文字データを分析し「幸福と近い文脈で使われている単語」から作成したイメージです。

前期では「精いっぱい」「自問自答」だった「幸福」が、中期の「思いやる」や「気づかす」、「積み重ね」を経て、後期では「浸る」「証し」「かみしめる」と穏やかさを増していきます。

◎ひととき)ずうっと元気でね 2014年6月

右肩上がりと思われた経済成長がバブル崩壊に直面し、アメリカ同時多発テロ、リーマンショック、東日本大震災と未曽有の出来事が相次いだ平成の30年間。当初、「自問自答」していた幸福は、「思いやる」ことを「積み重ね」ているうち、「平凡」な日々の中で「かみしめる」ものへと変化していったのでしょうか。

足元のくらしをよく見つめ、よく考える人々である全国の「ひととき」の書き手たち。そのまなざしの確かさに、毎朝教わり、深くうなずき、決して自分は一人ではないと、心が安らぎます。ぜひ紙面や朝日新聞デジタルでお読みください。

「ひととき」の掲載作や、反響の大きかった投稿のその後を探る連載などは、
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