新聞によって生まれる“団らん”を
ラジオでも再現したい。

落語家/桂吉弥さん

PROFILE

大阪府出身。神戸大学落語研究会に所属していた時に故 桂吉朝の落語に出会い、1994年入門。2014年度文化庁芸術選奨文部科学大臣新人賞受賞。大阪を中心に数多くの落語会を主催。ABCラジオパーソナリティ-や俳優としても活躍。特技は、長唄鳴物、水泳、サッカー。

写真 桂吉弥

新聞をきっかけに夫婦の会話が広がりました

新聞は、子どもの頃からの長い付き合い。毎朝、誰かが玄関から持ってきては、食卓に置くような家庭でした。今も、朝起きたら顔を洗う前にポストへ新聞を取りに行って読むのが習慣です。もし前日に阪神タイガースが負けていても、新聞で見たら勝っているかもしれないですし(笑)。

新聞といえば、学生時代に弟子入りしていた桂米朝(べいちょう)師匠を思い出します。朝日を含めた2紙を購読していらっしゃった師匠は、それを風呂敷に包んで、仕事先に持ち歩いていたんです。出先で桂枝雀(しじゃく)師匠や桂ざこば師匠と会った時におすすめの記事を見せて、「これ、お前知ってるか?」「いや、それは見てまへんわ!」みたいな、新聞をネタにしたやり取りをいつもされていました。

当時は勉強のために新聞を読んでいましたが、今は結婚して20年になる奥さんとの何気ない会話のきっかけが新聞になっています。「今日こんな面白いことが書いてあったよ」「まだ読んでないわ、それどこに書いてあったん!?」といったように。また、夫婦の会話を楽しむうちに、新聞の読む範囲も広がっていきました。「声」欄など、人の考えや思いにフォーカスした記事の面白さを知ったのも、彼女のおかげです。

写真 桂吉弥

新聞が作ってくれる“団らん”を、ラジオで

米朝師匠の影響もあり、今では僕も面白い記事があれば楽屋や放送局に持っていって、弟子や後輩と共有するようにしています。それが僕にとっての「ちょい読み」かなあ。やはり新聞は、身近な人との会話のきっかけを作ってくれるのがいいですよね。例えば帰宅した後、お父さんが新聞でも読もうかな、とリビングでくつろぎ、そこで隣にいた子どもに「おい、この記事知ってるか?」なんて話しかけて、それをきっかけに「今日はどんなことがあったんだ?」という会話が生まれたり。そういった、家族や友人との“ほっとする時間”を作ってくれるのも新聞だと思います。

その団らんの時間を、ラジオを通してリスナーのみなさんとの間で作りたい、そんな気持ちで取り組んでいるのが、現在ABCラジオでMCを務めている「とびだせ! 夕刊探検隊」という番組です(編集部注:大阪を中心に関西限定で放送)。毎週月曜の午後5時25分から、その前の週の朝日新聞の朝刊と夕刊から選んだ記事を音読し、共演者とフリートークしています。といっても難しいニュースの解説ではなく、例えば朝刊社会面のコラム「青鉛筆」(編集部注:大阪、西部本社版に掲載)を取り上げたり、とっつきやすく、かつ発見のある記事を選んで、楽しく笑いを交えて紹介したりするよう心掛けています。

毎週月曜の、夕飯の支度をしたり、車で仕事から帰宅したりするような時間帯。そんな「何かの途中」のひとときが、先週1週間の出来事を楽しく語り合うような時間になる、そんな番組にしていきたいと思っています。

写真 桂吉弥

作り手の顔を知っているからこその届け方ができる

番組には、週替わりで役者さんや起業家さんといった関西で活躍されている方々をゲストとして招くコーナーもあり、その中で記者をはじめとした朝日新聞の関係者にお話を伺うこともあります。

やはり新聞を作っている方々からお話を伺っていると、新聞を読む際の重みが違ってきますね。例えば、朝日新聞を印刷している工場の方に来ていただいたのですが、仕事上の苦労だとか、裏側にこだわりやストーリーがあることがわかりました。作り手の顔や思いを知った上で、リスナーの方々にお届けするわけですから、他にはない新聞とラジオの化学反応が生まれていると思います。ラジオは他のメディアと比べてリスナーとの距離が近いという特性があるので、新聞に対する親近感が生まれるのではないかと思います。

新聞を取り上げるというテーマで番組をやっている以上、新聞を読む人が増えてくれたらいいなと思っています。新聞の良いところは、予期せぬ記事との出会いがあるところ。ラジオを聴いて面白そうだと思って目を通した記事の横に、もっと興味をそそられる記事を見つけられる可能性もあります。ひょっとしたらそれが今後の人生に深く関わるものになるかもしれません。番組をきっかけに、みなさんがそんな記事に出会ってくれたらうれしいです。