「する」立場から「支える」側へ
28歳で引退するまでの25年間、スケートリンクから離れずに生きてきました。大学院に進学して研究の道に入り、当然のことながら環境は大きく変わりました。学会など所属する組織が圧倒的に増えましたが、一番大きな変化は、取材される側から自ら情報を集めて発信する側になったことですね。
スポーツは、「する(選手)」「見る(ファン)」「支える(ビジネス)」という三つの機能がバランスよく循環して、初めて文化として成り立つと言われています。私自身、「する」選手の頃は、どうしても成績など競技会の情報に目が向きがちでした。
けれども実際には、選手が氷上に立つまでには様々な「支える」人との協働がある。ソチ五輪代表の頃、私の靴を長年メンテナンスしてくれていた職人の田山裕士さん(小杉スケート)が朝日新聞で取り上げられたことがありました。それが自分のことのようにうれしかったのを今でも鮮明に覚えています。そして今、私も研究者として情報を発信し、スポーツを「支える」立場になろうとしているのです。
幅広い情報、足で集めた情報の大切さ
研究の世界では、情報をインプットし、それらに基づいた新たな知見を外に発表していくことが必要とされます。専門知識も欠かせません。そのため、日々大量の情報に接するようになりました。特に私の研究は、スポーツと経済や法律、社会などを絡めた学際的なものなので、幅広い最新の知識が求められます。
そういう幅広く新しい情報のニーズを満たしてくれるメディアの一つが新聞です。さらにいえば、政治や経済、社会とともに、スポーツや芸術、また映画・演劇など伝統的な意味での芸能の情報も網羅されている一般紙なのです。
今、世の中には多くの情報が発信され、中には、書き手が自分の足で集めていない情報や、編集・推敲(すいこう)を経ずに拡散されている情報も多いですよね。そうした玉石混交の状況の中で、新聞は特別です。選手時代を思い返せば、担当記者が競技会場に何度も足を運び、自分の目で見て、長い時間をかけて選手と信頼関係を築きながら対話して、記事は書かれていました。その手間こそが情報の信頼性や、心の内面の動きまで描き出す深さにつながっているのだと思います。だから私は、気になった情報があるとまず新聞で確認しています。
求める記事を見逃さないデジタルメディア
そんな日ごろの情報収集のために、私は朝日新聞デジタルを使っています。きょう見逃した記事を何カ月も経ってから探し出すのは、紙媒体では難しい。デジタルメディアなら、検索やソート(分類)の機能によって求める記事に確実にたどり着ける。私が有料会員登録しているフルプランには「MYキーワード」機能があるので、研究テーマに関係のある「スポーツビジネス」「知的財産」「著作権」といったワードを登録して、日々刻々と流れる情報を見逃さないようにしています。そして必要な記事は「スクラップブック」機能を使ってアーカイブします。
また、研究論文には出典明示が必要不可欠。そのため、朝日新聞デジタルで見つけた記事は、ウェブ上の掲載期限が切れた時のために、「紙面ビューアー」機能を使って紙面イメージも併せて保存しておくようにしています。
先行研究を踏まえるためには情報のアーカイブが不可欠で、新聞はその検索にも役立ちます。朝日新聞デジタルでは、過去5年分のデジタル配信記事に加えて、全国の紙面に掲載された記事も1年分検索できます。もっとさかのぼりたいなら、明治の創刊号から検索できる「聞蔵(きくぞう)2」という朝日新聞記事データベースもありますよね。導入している大学も多いので、学生にはぜひ利用をおすすめしたいです。
斬新なアイデアが生まれるのは、思わぬ出会いから
とはいえ、効率や確実性を求める情報摂取だけでは、ある分野の情報通にはなれても、その分野を発展させていくイノベーターにはなれないと思っています。斬新なアイデアや発見は、従来結びついていなかった情報と情報を結びつけることで生まれやすくなるからです。
私の研究テーマの一つである「著作権」を例にすると、フィギュアスケートはスポーツのカテゴリーに入れられていることによって「著作物ではない」という固定観念が一般的でした。しかし、どういうものが著作物なのかを規定する法律の文献や様々な研究を踏まえた上で眺めると、フィギュアスケートは立派な著作物だと言えるのです。そのことを、スポーツと著作権という二つの分野の情報をたくさん取得して結びつけることによって論拠をもって明らかにできる、これこそがイノベーションです。選手として競技会の情報ばかりを追っていたかつての私のままでは、できなかったことです。
それゆえ、自らの専門性を突き詰めることと同じくらい、情報の“雑食”も大事にしています。朝日新聞デジタルでは、「MYキーワード」登録で情報を確実に得る一方、「紙面ビューアー」を使ってざっと斜め読みするのです。雑食の中の運命的な出会いを求めて、いわば、情報のウィンドーショッピングをしているという意識ですね。
いかに伝えるか。発信者のまなざしで眺めてみよう
情報は、自分が取得する受け身の立場で読むだけではなく、発信者になったつもりで読むことが大事だと考えます。今や情報発信は、記者や研究者など限られた職種の人たちだけのものではなく、ブログやSNSなどインターネットを介して誰もが発信者になれる。そして、発信が手軽になった分、「いかに伝えるか」という“質”がますます重要になっています。
それは書くことだけではなく、面接の決められた時間内でいかに自分をアピールするかを求められる就活生や、プレゼンや資料作りなど伝達行動の多い社会人にも必要とされる、コミュニケーション能力全般に通じることです。新聞記事は、限られたスペースの中で、いろいろな事象を筋道立てて簡潔に伝えている。そうした記事の構造までをも俯瞰(ふかん)的なまなざしで読み込んで、情報の繰り出し方を参考にする。それは、誰にとっても実社会を生き抜くためのヒントとなるのではないでしょうか。
就活に向き合う学生にも、練習に明け暮れる若いアスリートにも、新聞を通じて社会を俯瞰的に眺め、広い選択肢から好奇心をくすぐられるような刺激的な発見をして、自らのキャリアをより良い方向へと切りひらいていってほしいと思います。