「新聞をひらくと発見がある。そのきっかけになれたら嬉しいです。」

担当記者に聞く、「ちょい読み」

校閲で正確にわかりやすく伝えたい。
誰かの物語を「ちょい読み」してください。

朝日新聞メディアプロダクション 校閲事業部長/前田安正

    PROFILE

    1982年朝日新聞入社。用語幹事、東京本社校閲センター長、編集担当補佐兼経営企画担当補佐などを経て現職。日本語や漢字をテーマにしたコラム、連載なども長年担当してきた。

    校閲の仕事とは?

    記者が書いた原稿について、誤字・脱字・衍字(えんじ=余分な文字)を確認し、用字用語やことばの意味を確認し、事実関係やデータに誤りや矛盾がないかを確認し、文章にわかりにくい部分がないかを確認し、不適切な表現になっていないかどうかを確認する。紙面が組み上がったら原稿の削り方が間違っていないかを確認し、見出しを確認し、写真のトリミングや説明文なども確認する。これら一連の確認作業のことをいいます。

    写真 前田安正

    「未然に防ぐ」から「ブランド価値の保証」へ

    新聞社が世に出す1本の記事は基本的に、少なくとも6人が関わり、チェックをしています。記事を書いた記者、その責任者であるデスク、紙面を組む編集者とそのデスク。そして校閲担当者と校閲デスクです。

    その手厚いチェック態勢の一角である校閲の役割を「文章の間違い探し」と思っている人が多いかもしれませんが、これは正確ではありません。日本語として正しい使い方をしているかどうかはもちろん、事実誤認はないか、人を傷つけるような不適切な表現になっていないかなど、記事についてあらゆる角度から「確認」をするのが校閲です。「間違い」はその結果の一つに過ぎません。原稿に間違いの指摘がなければ、校閲として「OK」の判を押したことになるのです。

    写真 前田安正

    最近は「校閲部門=予防的危機管理部門」とする考え方が、社内にも浸透してきました。大きな誤りが製品としての紙面に載ることがないよう、未然に防ぐ役割です。さらに、ネット発信がこれだけ増え、読者自身が情報の真偽を見極めることを求められる現在、情報を正確にきちんと読者に伝えるという「朝日新聞のブランド価値を守る部門」にまで、校閲の守備範囲は広がってきています。

    生きたことばに触れ、発信する役割も

    少し前までは、「校閲」という仕事があることさえ知らない人がほとんどだったと思います。それが、数年前に出版社の校閲部を舞台にしたテレビドラマが放映されたことをきっかけに、にわかに日が当たるようになりました。朝日新聞社内にも、校閲は「縁の下の力持ち」という認識が根強くありました。しかし日本語への関心の高まりもあり、校閲記者が蓄積してきたことばの知識を積極的に外に発信していこうという考えが生まれてきました。

    写真 前田安正

    私自身、2000年代初めから漢字やことばについて、紙面に特集やコラムを書いてきました。その流れは徐々に広がり、現在連載中の「ことばサプリ」は校閲記者が持ち回りで書く人気コラムに育ってきました。日々生きた日本語に触れ、社会現象とともに生の記事を読んでいる校閲記者は、言語学者とも辞書編集者とも違った角度からことばの話を提示しているのです。

    たとえば、「雨模様」と聞いて、どのような天気を思い浮かべるでしょうか。このことばは「雨催い(あめもよい)」からきたもの。「眠気を催す」と言った場合、眠っている状態にはなっていませんよね。同じように「雨模様」も雨が降り出しそうな様子、つまりまだ降っていない状況を表しているのが本来の意味です。ところが最近は、「すでに雨が降っている」という意味で使う人が増えています。いくら正しい日本語であっても、多くの人が誤解をする恐れがあるのなら、場合によっては「雨が降り出しそうだ」と言い換えたほうがいいという判断も出てきます。

    ここで必要なのは、一般的な読者の視点にたった見方。校閲記者は、ことばの専門家であると同時に、記事に対しては素人の目を持つことも求められます。小学生からシニアまで、だれが読んでもわかる記事にするため、私たちは適宜ことばに関する状況を話し合い、確認しながら仕事をしています。

    それぞれの人の物語として読む味わい

    さまざまなジャンルのニュースが詰め込まれていて、どうも新聞はとっつきにくいなと思っている方もいると思います。新聞を単なる出来事の集合としてではなく、記事一つ一つが「誰かの物語」だと思って読んでみてはどうでしょう。ちょっと捉え方を変えるだけで、どのジャンルの記事も、単なる情報としてではなく、誰かの物語として読むことができます。

    スポーツが好きな人は、スポーツ面のハイライト記事を読んでみてください。選手の気持ちに迫った記事などは、そこに至る過程や背景が書き込まれていて面白い。「あの場面であの選手はこんなふうに考えていた」ということもよくわかります。試合結果はどの媒体でも同じですが、その物語の切り口はそれぞれ違っています。ひとりの人間の物語として読めば、日々のニュースも連続ドラマのような味わい方ができるのではないでしょうか。

    写真 前田安正

    世界には70億を超える人が生活しています。政治であれ経済であれ、どんなニュースにもそこには人の営みがあります。それぞれの人の物語を書けるのが新聞であり、ファクトを通してそれをどう描くかは各社の個性です。朝日新聞は記者たちの考え方も多様で、自由度が高い。一つの紙面に異なる意見が載ることもあります。この多様性こそが朝日新聞の特徴かもしれません。

    多様性が求められるこれからの時代、自らの考えや意思をプレゼンすることはますます大切になってくるでしょう。その時に広い視野を持って自らを客観視することは、大きな力になります。もちろん、ビジネスにおける重要性は言うまでもありません。さまざまな物語が読める総合紙は、視野を広げる意味でもとても役立つはずです。

    ことばのプロ「校閲記者」の
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    ことばサプリ

    本社校閲センター員が持ち回りで執筆を担当しているコラム。
    2019年4月より朝日新聞土曜朝刊オピニオン面で連載中。ことばにまつわるあれこれを、ことばのプロがつづります。読者からことばに関する疑問やご意見も受け付け中。

    写真 ことばサプリ