SDGsを頭に浮かべて読むと、世の中の見方が少し変わるかもしれません。

担当記者に聞く、「ちょい読み」

SDGsの視点で自分と世界をつなげる。
「ちょい読み」でその一歩を踏み出してください。

編集委員/北郷美由紀

PROFILE

朝日新聞社編集委員(SDGs 担当)。千葉県出身。津田塾大卒、英バーミンガム大修士。朝日新聞社入社後、政治部、国際報道部、オピニオン編集部で取材。インドネシア特派員のときには東ティモールの独立を伝える。子育てシフトでしばらく記者を離れ、提携大学でのジャーナリズム講座や社内の記者教育を担当した。2017年1月から紙面展開を始めた企画記事「2030 SDGsで変える」に取り組んでいる。セミナーや講演会に呼ばれることが増え、「新聞話者」と自己紹介することも。

企画記事「2030 SDGsで変える」とは?

世界共通の「新しいものさし」であるSDGsへの理解と取り組みを広げることを目指す朝日新聞の企画記事。SDGsの達成に向けて動く企業や自治体、NGO/NPO、様々な人たちを紹介しながら、読者とともに持続可能な社会を実現する方策を探ります。

SDGsSustainable Development Goals(持続可能な開発目標)の略で、2015年に国連で採択された2030年が達成期限の国際社会の共通目標です。持続可能な世界を実現するための目標で「17の大きな目標と169のターゲット」から構成されています。例えば5番の目標に「ジェンダー平等を実現しよう」、6番の目標に「安全な水とトイレを世界中に」、12番の目標に「つくる責任つかう責任」などがあります。

17の目標をわかりやすく解説

写真 北郷美由紀

SDGsという“器”が記事を届けやすくする

朝日新聞では、2017年1月31日の朝刊から「2030 SDGsで変える」という企画記事を展開しています。メディアの中でもSDGsにいち早く取り組むことになるプロジェクトが立ち上がったのがその約半年前。「ともに考え、ともにつくる」という朝日新聞社の企業理念のもと、キャスターの国谷裕子さんの協力を得てスタートしました。現在進行形で情報発信しています。

振り返ってみると、2015年にSDGsが採択されたときの記事の扱いは国際面の3番手でした。SDGsは世界の未来を考える上でとても重要な課題ですが、様々なニュースが次々と飛び込んでくる中、それらを差し置いて大々的に載せるほどではなかったんです。それだけに「2030 SDGsで変える」という企画が立ち上がったことは画期的なことでした。大きなうねりになる前のできごとに注目することや、特定の企業や自治体の活動を詳しく取り上げることが、環境・社会・経済の課題にまとめて取り組むSDGsの話題として掲載しやすくなったんです。

具体例として、2019年1月に紹介した、スイスに本社を置くネスレ(Nestle)のポール・ブルケ会長のインタビューがあります。同社は、かつてパーム油の買い付けが熱帯雨林の破壊を招いていると大きな批判を浴び、その後の変革を経て、「ビジネスと人権」や環境に関して先頭を走る企業となりました。インタビューでは、そうした経緯について踏み込んだ話をしてくれています。

言ってみれば、今まで一つの料理として提供しづらかった話題が、SDGsという“器”に盛ることで、一品料理として提供できるようになった。社会のありようや課題を新しい方法で届ける環境を整えたことは、伝える私たちにとっても読者にとっても非常に大きいことだと思います。

写真 北郷美由紀

未来を考えるための材料としてSDGsを届けたい

「2030 SDGsで変える」の記事を読んでくださった皆さんは、他の記事と少し書き方が違うことに気づかれているかもしれません。SDGsは、世界に向かって、17分野の目標に皆で取り組もうと呼びかけるものです。大切なのは、一人ひとりが日常生活でできることを見つけ、行動を起こすこと。

そのために私たち記者は、大上段に構えて「こうすべき」と訴えるのではなく、誰もが「私にもできそう」と思ってもらえる話題を探し、皆さんがそれを読むことで何かに気づき、さらにその先に進んでくれることを願いながら記事を書いています。現在とその先の未来のためにできることを考える、その「考えるための材料」を提供しているということです。

例えば、朝から晩まで働いていたパン屋さんが、その働き方を変えることをきっかけに品ぞろえや販売方法を見直し、心を痛めていた食品ロスの問題にも取り組んだ話題も、そんな観点で取材して記事にしています。

SDGsは将来世代に関わることですから、子どもたちや家庭に関心を持ってもらうことが特に重要です。朝日新聞朝刊に毎日載っているクイズ企画「しつもん!ドラえもん」では、2019年11月に3週間ほど、SDGsにまつわる話題とすべての目標を取り上げました。これまで書いたどの記事より執筆に苦労しましたが(笑)、大学を含め様々な学校から、「『なるほど』がたくさんあった」「教材として使いたい」といった声をいただいています。東京の国連広報センターがニューヨークの本部に伝えたところ、Amazing!(素晴らしい!)という反応が返って来たそうです。

写真 北郷美由紀

記事で感受性を磨き、考える力を高める

新聞には幅広い分野の記事が掲載されています。そんな新聞を手にして、SDGsを頭に浮かべながら読んでみるのはいかがでしょうか。原材料の多くを輸入しながら世界で必要な食料援助の2倍にあたる量を廃棄している日本の食品ロスの問題は、世界で食料や水が不足している問題と地続きです。それにより、貧困問題の解決も遠ざけてしまっています。廃棄された食料を焼却処分すれば、二酸化炭素を出して深刻な温暖化に拍車を掛けてしまいます。様々な課題は根っこでつながっていることを意識すれば、新聞の読み方も変わるでしょう。そうやって知識を広げていくうちに、世界のいろいろな出来事が私たちの便利で快適なくらしにつながっていることがわかってきます。

また、これはSDGsのどの目標と関わるのだろうと想像を巡らせることで、考える癖がついていきます。授業でSDGsについて新聞を通じて学ぶ学校も増えています。最初は「ちょい読み」で構いません。家庭でも、新聞でSDGsの記事を見つけ、親子で話し合ってみるのもよいのではないでしょうか。

その一歩として、ぜひ朝日新聞を活用していただきたいと思います。まずは紙面を眺めてみてください。紙の新聞の良いところは、いろいろな記事が一度に目に入ることです。「たまたまだけど、読んでよかった」といった、偶然の出会いがあります。私は新聞の読み方講座に呼ばれて話すこともあるのですが、記事に喜怒哀楽を見つけてもらうワークをしています。自分がどんなことに喜び、怒り、悲しみ、楽しいと感じるのか。感受性のアンテナが磨かれれば、新書1.5冊分といわれる朝刊1部の情報量は「宝庫」になるのではと思います。駅やコンビニなどで売られている朝刊は150円。コーヒー店での注文を少し控えめにすれば捻出できるお金です。ぜひ、偶然の出会いを期待して読んでみて下さい。そして、感じたことや考えたことを家族や友人に教えてあげて欲しいです。

SDGsとの関連でいえば、記事と17の目標の関連性を自分なりに説明できるようになれば、もっともっと思考の幅は広がるはず。さらに深く掘り下げたり、興味のある記事をスクラップして後で読み返したりするならば、クリックひとつでスクラップが完了し、メモも残せる朝日新聞デジタルが便利です。デジタル版では読んでいる記事に関連する以前の記事も表示されるので、時系列を簡単に追うことができます。また、関係する話題をどんどん読み進めることもできます。新聞とデジタルを使い分けながら、自分と世界をつなげていって欲しいですね。