真実を知る

「森友学園にまつわる公文書改ざん報道」から見る、記者たちの姿勢

朝日新聞社 経営企画室 室長補佐/羽根和人

記者たちの粘り強い取材で洗い出された「事実」

今もその余波が残る、森友学園への国有地売却をめぐる問題。その始まりは、2016年秋に朝日新聞大阪社会部に所属する記者が受けた1本の電話でした。この国有地売却に端を発した財務省の公文書改ざんに関する朝日新聞の報道は、「財務省による公文書の改ざんをめぐる一連のスクープ」として、2018年度の新聞協会賞(編集部門)を受賞しています。

スクープとは、他の報道機関に先駆けて大きなニュースをつかみ、報道することです。新聞協会賞の審査では、この一連のスクープに対して、「民主主義の土台を根底から揺るがす行為を明るみに出した、歴史に残る優れた調査報道」という評価がありました。

こうしたスクープを生み出す取材は「調査報道」といわれます。新聞記者の取材というと、あちこちを駆け回るドラマのような展開を思い浮かべる方もいますが、実際は、膨大な情報や資料を詳しく調べ、疑問を解いていくために取材を重ねる地道な仕事だといいます。当時、東京本社の社会部次長として取材班をとりまとめた羽根和人(現:経営企画室長補佐)が、取材の経緯とともに、調査報道について語りました。

公表されない情報を報じる「調査報道」とは

報道には災害報道や事件報道、政策報道など様々なものがあります。警察や行政機関といった関係当局が持つ情報や発表にもとづいて記事を書くことも多い。一方、当局が出す情報に頼らず、新聞記者が独自に情報を集めて報じるものを「調査報道」といいます。

調査報道は、不祥事を暴いたり、当局が公表を前提にしていない情報や意図的に発表しない情報を明らかにしたりするために必須の取材手法です。とはいえ私は、初めからスクープのために取材をするのではなく、基本の取材を大切にした結果が様々なスクープにつながると考えています。

取材は「1本の情報電話」から始まった

森友学園が建設を進めていた小学校=2019年12月9日午後2時37分、大阪府豊中市、朝日新聞社ヘリから、小宮路勝撮影

「大阪府豊中市の国有地が、ある学校法人に売却されたが、財務省が価格を公表していない。おかしくありませんか」

今回の調査報道のきっかけは、2016年の秋ごろ、朝日新聞豊中支局に女性の声でかかってきた1本の電話でした。

こうした情報提供があった場合、新聞記者は、公開されている情報を集めるところから取材を始めます。その結果、その国有地が森友学園に売却され小学校が建設されようとしていることなどが分かりました。次に調べたのが、財務省が公表している国有地の売却価格一覧です。財務省の内規によると、日本国民の財産である国有地の売却価格は原則として公表することとなっていますが、この土地売買には価格の記入はありませんでした。

そのため、売却の窓口であった財務省近畿財務局に取材しましたが、「学園側の強い要望で公表できません」という回答があったのみでした。

記者の姿勢が朝日新聞の信用を支える

近畿財務局が入る合同庁舎=大阪市中央区大手前

近畿財務局の話では、納得できるはずがありませんでした。そもそも、買い取り側が公表しないで欲しいと頼んだら、非公表にできるのだろうか——。

実は調査を始めたとき、電話を受けた記者は「何か裏があるのかな」程度の軽い感触だったそうです。ただ、この記者は心構えとして「情報提供を大事」にしてきたといいます。朝日新聞を信頼して寄せてくれた情報だからこそ、丁寧に取材すると決めていたのです。

この姿勢は、新聞記者にとってとても大切なことです。「朝日新聞に情報を提供したのに相手にしてくれない」では、誰も私たちに情報を提供したいとは思わなくなるでしょう。もちろん、記事にするには、一つの情報だけでなく、それを裏付けるような複数の情報を必ず得る必要があります。そのためにも、寄せられた疑問に誠実に向き合うことは新聞記者に求められる当然の姿勢なのです。

専門家ではない新聞記者に求められる取材手順

この国有地の売買を調べるなか、隣接する同じくらいの広さの国有地が14億2,300万円で豊中市に売却されていたこと、また、この国有地の不動産登記簿謄本に「買い戻し特約 1億3,400万円」という見慣れない記述があることなどが分かってきました。

新聞記者は、必ずしも取材対象となる業界への深い知識があるわけではありません。そのため、業界をよく知る人などに取材をして勘所を探っていきます。

不動産業界の方に取材し、「買い戻し特約」とは国がその土地を買い戻す際の金額を事前に定めたもので、多くの場合は土地の売買価格と同じである、ということを知りました。つまり、森友学園が購入した国有地の価格は1億3,400万円であり、隣接する国有地と比較してかなり安価だったことが、おぼろげに見えてきたわけです。

しかし、記事にするためには、その金額で間違いないという根拠をつかむ必要があります。その後も取材を重ね、最終的に森友学園の籠池泰典理事長への直接取材で、売却価格が1億3,400万円である根拠を得ることができました。さらに籠池理事長は、金額を非公表にするよう強くは求めていない、と語ったのです。

そして、2017年2月9日付の朝日新聞において、「国有地の売却額非公表 価格、近隣地の1割か」という記事となりました。

スクープが問うたのは「行政の公平性」

森友学園への国有地取引をめぐる決裁文書が書き換えられている疑いを初めて報じた朝日新聞2018年3月2日朝刊(東京本社最終版)

この問題が国会で連日取り上げられるようになった頃、朝日新聞では東京社会部や政治部が国会や財務省の周辺、大阪社会部が森友学園や土地取引に関わった関係者らを主に取材していくという役割分担で取材班が作られており、私は東京社会部の陣頭指揮をとっていました。東京、大阪で取材を続けるなかで浮上してきたのが「財務省が公文書を改ざんしたのではないか」という疑いです。

公文書は、民主主義の原点であり基本です。国会の審議は公文書をもとに行われますし、全ての行政は公文書で動いていきます。その公文書を改ざんするということは、行政の公平性をゆがめることになり、政府への信頼の基盤が揺らぐような一大事です。初めに情報提供の電話を受けた記者も、政府がそんなことをするとは考えもしなかったでしょう。

取材を重ね、財務省が公文書を書き換えたという確信に至り、2018年3月2日の朝刊1面で「森友文書 書き換えの疑い」という記事を出しました。財務省が14件の公文書で改ざんを行って国会や会計検査院に提出していたと認めたのは、その記事が出てから10日後のことでした。

調査報道に必要なのは「薄皮をむくような慎重さ」

今回の場合、一連の調査報道の第一歩はインターネット情報を精査することでした。森友学園に売却された国有地の価格が非公表であるということも、ネット上で公開されていた情報でした。しかしその情報は、私たちのような報道機関が探し出して記事にしない限り、「存在していることが知られていない=ないも同然」の情報になってしまうかもしれない。ネットの海の中から世に出すべき情報を見つけ、正しく伝えることは、今の新聞記者に求められる一つの役割だと思っています。

一方、問題の核心となる情報、つまり実際の売却価格はいくらなのか、なぜ売却価格が非公表なのかはネットでは分からない。そして、そこが問題の肝とも言えます。

国の中枢を担う「省庁の中の省庁」だといわれる財務省が、公文書を改ざんするのだろうか。取材班のだれもが当初は疑問に思いました。だからこそ私たちが日々感じていたのは、この取材は事実を一つひとつ積み重ね、薄皮をむくような慎重さで核心に迫っていかなければいけないということでした。

膨大な時間と労力を費やし、細心の注意を払って情報を集め、疑問を解きながら核心に迫り、記事として自信を持って出せるものにしていくこと。それこそが、私たち新聞記者に課せられた最も重要な役割であるはずです。

公文書の改ざんは、国会も会計検査院も明らかにはできなかったことです。検察も不起訴にし、国民には捜査結果をほぼ明らかにしていない。報道機関だからこそ事実をつかみ、伝えることができたと思います。朝日新聞が国有地の大幅値引きについて報じた最初の記事を発端に、ほかの報道機関も取材を進め、それぞれが真相を究明しようとしたことも、森友学園問題を掘り下げることにつながりました。

「必要な情報を探すプロ」である私たち新聞記者は、情報に客観的に向き合うために思い込みやイデオロギーを排除して取材に取り組み、事実を的確に伝える役割を担っています。そして、取材力の高さだけでなく、記者一人ひとりが地道な努力を重ね、間違いないと確信できるまで取材を尽くした情報を皆さんに届けることが、私たち朝日新聞の持つ価値だと思います。

たくさんの情報が簡単に手に入る今だからこそ、本当に意味のある、信頼できる情報をお届けしたい。朝日新聞紙面もしくは、朝日新聞デジタルで記事を読んでいただき、その価値を感じていただけるとうれしいですね。

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