政治って?② 「私だったら」の想像力

編集委員・松下秀雄

このプログラムでは、4校の高校生1282人のアンケート結果をもとに、18歳選挙権に対する若者の意識を読み解いたうえで討論を進めた。写真はそのアンケート。
[ 更新日:2016.07.04 ]

前回のコラムでは、校則とか授業のあり方とか、自分に身近な課題と政治のかかわりを考えてみてはどうか、と呼びかけました。

もうひとつ、試してもらえたらいいな、と思うことがあります。

自分とは立場の違う人と話しあい、「もしも私が相手の立場なら」と想像力を働かせること。それが、政治や民主主義に欠かせない要素だからです。なぜなのか、これからみていきましょう。

共通点は「投票できない」

参院選公示の直前、4人の高校生が民主主義について学びました。「市川房枝記念会 女性と政治センター」が、18歳選挙権の実現にあわせて用意した2日間のプログラムです。私も同行しました。

初日は、東京・新宿と新大久保を歩きました。

ホームレスの人が販売するビッグイシューという雑誌があります。高校生たち、これを新宿駅前で売る44歳の男性に話を聞きました。仕事がうまくいかず、7年前に路上で暮らし始めたという男性は、高層ビル街を振り返って、こう答えました。

「20歳くらいのころは高層ビル街で働いていて、ホームレスのいる通路を鼻をつまんで通っていたんです。自分がそうなるとは、思ってもいなかった」

高校生たちにホームレスの問題を説明したビッグイシュー日本・東京事務所長の佐野未来さんによれば、近年は20代も含め、若いホームレスの人が増えているそうです。ずっと続けられる保障のない不安定な働き方が広がる中、家族にも頼れない人たちが「路上に投げ出されている」というのです。

佐野さんは、ホームレスの人の多くと、日本で暮らすコリアンの共通点として投票できないことを挙げました。外国籍の人は選挙権がない。ホームレスの多くも住民票がないから投票できない。

そして、コリアンがヘイトスピーチにあったり、ホームレスがつらい暮らしを余儀なくされたりしています。

「数の暴力」と紙一重

翌日は討論でした。

沖縄尚学高校3年の上原晴美さん(18)は民主主義について、こう論じました。

「『公共の福祉』や『多数決の原理』の名のもとに、少数の人たちだけが痛い思いをしてはいけない」。念頭にあるのは、沖縄への米軍基地の集中。人口が少ない沖縄の人たちが、重すぎる負担を強いられているからです。

選挙に参加できない人。多数決ではなかなか勝てない人。そういう人たちが厳しい状況に置かれています。そもそも多数決で決める「民主主義」は、一歩間違えば「数の暴力」になる危険性をはらむ。それらは紙一重なのです。

その分かれ目はどこか。上原さんは「立場や視点が違っても、相手に共感できるかどうか」を挙げました。

つまり、相手の置かれた状況を知り、「もしも私がその立場なら」と想像力を働かせることでしょう。そして共感が広がれば、たとえ数が少なくても、多数決で負け続けることにはならないはずです。

逆に少数派が負け続け、いずれは理解してもらえる希望も持てなくなれば、その社会の一員として扱われているのか疑うようになる。社会にひびが入り、バラバラになってしまう。いま恐れなければならないのは、その点だと思います。

世界に目を転じれば、貧富の差が広がるだけでなく、移民の排斥が起こり、欧州の社会で受け入れられずに「イスラム国」(IS)のような組織に加わる若者もでています。

日本は、そんなふうにならないでいられるでしょうか。

「若者」という少数派

共感の大切さ、若いみなさんには理解しやすいのではないでしょうか。

なぜなら、みなさん自身も少数派だから。高齢化社会における、若者という少数派です。年上の世代に理解されず、共感を広げられなければ、若者がしわ寄せを受けることになりかねません。

この機会に、おじいさん、おばあさんとか、年の離れた人と話してみてはどうでしょう。お互いに相手の事情を聴き、どうすれば生きやすい社会をつくれるかを話しあう。

その中から、投票先がみえてくるかも知れないし、おじいさん、おばあさんが、みなさんのためを思って票を投じてくれるかも知れません。

みなさんがもつ政治への影響力は、「1票」だけではありません。共感を広げることで、もっと大きな力を行使できるはずなのです。(編集委員・松下秀雄)

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