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モヒカン就活

「やったー」
 首都圏の大学生Aさんは昨年4月、第一志望の会社から内々定をもらうと、それまで毎日感じていたストレスから一気に解き放たれた気分になった。これでリクルートスーツを着なくても、髪型も、いわゆる「いかにも」という形でなくていい。有頂天のAさん、さっそく美容院に出かけ、髪をいじった。ツーブロック風のモヒカンである。

「さあ明日から何をしようか」。浮き浮きしながら手帳を開いた。すると、何と翌日に、エントリーしていた別の企業の2次試験が入っているではないか。

本命から内々定を取りつけたのだから、今すぐ辞退してもまったく構わない。でも、その企業の仕事にはちょっと興味があったし、社会人になった時の勉強にもなるかもしれないと考えて、思い切ってネクタイを締めて出かけた。

だが、30人ぐらいで行うグループディスカッションの会場に入ったとたん、みんなの視線が自分の髪に集中するのを感じた。もちろん冷ややかだ。内心は「なんて大胆なヤツが来たんだ」といった感じだろう。

おまけに、ほかの就活生はディスカッションが始まる前、その企業関連の書物を一生懸命読んでいるのに、自分はうかつにもそんな用意をしていなかった。仕方なくたまたま持って来た別の読み物に目を通すしかなかった。

企業側の数人も入って来るなり、やはりAさんの髪型が目に飛び込んできたようだ。だが、その目つきを観察すると、突き放したような冷たさではなく、興味津々だとAさんには映った。

ディスカッションが始まった。企業側が出したテーマなどに沿って、みんな自分を認めてもらおうと熱心に手を挙げる。ぴりぴりした雰囲気の中、Aさんも真剣な気持ちで挙手をしたら、やっぱり周囲からこっけいに見えるのか、くすくす笑いも起きた。それでも「30人もいるので、1人1回がせいぜいなのに、2回も当たった」。

その翌々日、最終面接の案内が来た。この髪型でも?と戸惑いながら、リクルートスタイルって何だろうって考えてしまった。

確かに、いわゆる業界に近い企業なので、銀行などだったらダメだったかもしれない。でも、企業によっては、ちょっと「変わったヤツ」も社内にいた方が、新しい発想や新規事業などに役立つんじゃないかと思うんじゃないかな。そんな一人として、自分を注目したのかも……。

さすがに、これ以上悪ノリして最終面接に臨むのは、その企業にも頑張っている内定生にも申し訳ないことと、この段階で辞退の電話を入れた。

だけど、就活をしている後輩たちには経験的に言いたいと思う。「外見で固定観念にしばられるより、冒険した方が案外、好感持たれるかもよ」

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