あの人とこんな話

就職活動

北里大学教授 / 工学博士
馬渕 清資さん

就職活動

寄り道が、本業の世界を広げるきっかけになる

昨年9月、世の中を笑わせ、考えさせてくれる研究に授与されるイグ・ノーベル賞に輝いた。バナナの皮がどれくらい滑りやすいのかを数値で表現して、明らかにした研究だ。馬渕さんの専門は人工関節の研究で、関節の潤滑油である粘液と似た物質がバナナの皮にもある。

幼い頃は一日中昆虫を追いかけている子どもだった。だが高度成長期、将来性を考えて工学部に進学。周囲では車のエンジンやモーターなどの研究が花盛 りで、「物理が得意で進学したものの、元来生き物が好きだった私は工学系の研究をする気になれず腐っていました。そんな時、教授から人工関節の研究を勧め られ、少しでも生き物に近い方へ行けると飛びついたんです」。

今でこそ需要の増えた分野だが、当時は研究する者もほとんどおらず、周りの人には驚かれたが、本人は意に介さず没頭。ある意味特異な存在として約40年間、人工関節の研究を続けてきた。

そんな馬渕さんの研究姿勢は「結果至上主義」だ。「たとえ常識でも、教科書に載っていることでも、実験で異なる結果が出たらそれを尊重する。それには丁寧な実験が基本となりますが」

バナナの皮が滑ることも常識とされているが、本当にそうかと気になっていた。その疑問を解消すべく、昼休みなどを利用して、数百ものバナナの皮を自ら踏みつけて滑るメカニズムを研究。これがまさかの受賞となり、本業も注目されて周辺の状況は大きく動き出した。

「人工関節はどんなに優れた技術でも、新しい技術が出ると古いものは継承されにくいという傾向があり、無駄に年を重ねるばかりで焦っていました。で も受賞で講演の機会が増え、先人の技術や自らの主張を伝えられるようになった。今回の件は、本筋の道を外れ、寄り道先で人脈を拡大したり情報を収集したり して世界を広げ、元の道に戻ったよう。ぜひ寄り道で得たものを本業に生かしたいですね」

地道にやってきた活動があるからこそ、変化球が生きる。

(2月10日掲載、文:田中亜紀子・写真:南條良明)

まぶち・きよし ●1950年名古屋市生まれ。78年東京工業大学大学院博士課程修了、工学博士号取得。現在は北里大学医療衛生学部教授、同大大学院医療系研究科教授など。専門はバイオメカニクス(生体力学)、バイオトライボロジー(生体摩擦学)。バイオトライボロジ研究会会長、日本臨床バイオメカニクス学会評議員、日本人工関節学会評議員、バイオマテリアル学会評議員なども務める。2014年にイグ・ノーベル賞の物理学賞を受賞。
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