仕事力~働くを考えるコラム

就職活動

「全ての仕事は人間のために」
石黒 浩が語る仕事―1

就職活動

考えるって何だろう?

幼少時の疑問は今も続く

僕は、人の言うことを聴かない子どもだったようです。いつも頭は疑問でいっぱいだったので、親や先生の言うことを無視して自分の世界の中に住んでいました。「僕は誰なんだろう」「人間って何だろう」「生きてるってどういうことか」。おそらく子ども時代はみんなそういう難しい問題を感じていたと思います。しかし考えても分からない、大人に聞いても答えてくれない。ただただ質問ばかりして先生を閉口させていました。

小学5年生になった頃、大人から「人の気持ちを考えなさい」と言い渡されたのですが、全く意味が分からなかった。僕が知りたいと願う「人」「気持ち」「考える」という難題がセットになっているんですから。その時初めて、これは大人になっても分からないことらしいと直感しました。ひどいですよね、大人は自分で理解していないことを子どもに押しつけてくるんですから。とすれば自分自身で考え、掘り下げていくしかない。そのために僕はずっと、研究者という仕事をしているんです。

人は昔から、自分とは、人間とは何かということを知りたいと思っていました。その答えを得るためには2通りの比較方法があって、一つは自然界を対象にして虫や動物は人間と何が違うのか、猿と人間の境界はどこにあるのかなどを探る。もう一つは、人間が創り出す人工物を比較の対象にすることです。人類は創世記から自然界に適応し、あるいは克服して生き残るために道具を作り、動力や汽車、自動車、電気などの技術開発を続けてきました。機械は人間の機能を拡張するものであり、人間の能力をヒントに作られるものなのです。

そして僕が手掛けるロボットも、人間を映す鏡としての人工物で、「人間とは何か」という普遍の問いに、直接ロボット技術で答える時代に差し掛かってきたと思っています。

命を懸けて考える

今は自分の仕事で進むべき道がある程度見えていますが、大阪大学基礎工学研究科で博士課程の修得を目指していた時期は、まだトンネルの中にいるようでした。学んできた幾つもの学問は人が作り上げたもので、それらを学んでも新しい発想は必ずしも得られない。僕に新しい発想はできるのか。恩師の辻三郎先生の教えは「基本問題を考えなさい」。博士号を取れなかったら死ぬ覚悟で考え続けました。

生きた心地もしない苦しい数カ月が過ぎて、ある瞬間、ブレークスルーがやってきました。学んできたことの壁が壊れて、いろいろなものの関係性が見えるようになり、オリジナルな着想を得られるようになった。人間の脳は既存の壁やルールで固まりやすく、それをぶち壊すために考え抜くということが必要なのでしょう。その後僕は、研究室でいろいろなロボットを作るという機会に恵まれ始めました。

大阪大学で助手を務めたあと、京都大学工学研究科の石田亨先生の研究室に助教授として招かれ、「社会を変える研究をしなさい」という大きな、そして一生考え続けなければならない教えを受けました。人間を幸せにするための技術開発で社会を変える。これが人間と関わるロボット研究のきっかけとなりました。人間の脳は大きく、可能性に満ちています。使わない手はないですね。(談)

いしぐろ・ひろし ●1963年滋賀県生まれ。工学博士。大阪大学大学院基礎工学研究科システム創成専攻教授(特別教授)、ATR石黒浩特別研究所客員所長(ATRフェロー)。ヒューマノイドやアンドロイド、自身の容姿に酷似した遠隔操作型ロボットのジェミノイド、最低限の人間の特徴を有するテレノイドなど多くのロボットを開発している。大阪文化賞受賞。著書に『人と芸術とアンドロイド』『ロボットとは何か』ほか多数。
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