「無理しても頑張る」
蜷川 実花が語る仕事―4
濁流に乗っていける筋力を
アートもコマーシャリズムも
今年5月に台北で私の写真展を開催させてもらったのですが、平日でも入場規制が出るほどで、会場側の話では新記録だという約13万人の方に来て頂けた。若い女性たちなどが暑い中3時間近く並んでくれたそうです。ずっとアジアを拠点に仕事をしたいと思っていて、ここ何年間か準備をしてきたので、この反響は本当にうれしかった。さあ始まるぞ、ここから広げていくぞという感じです、今。
写真家としてアートのことだけ、作品を売るということだけを考えれば、おそらくこんなふうに誰の目にも留まり、コマーシャリズムに乗った仕事はやらない方がいいのかも知れません。でも私はやりたくて仕方がない。いわゆる広く知ってもらえるような活動に一切手を出さず、どこかにこもって自分の作品を撮るということだけが高尚な仕事だとは思えないんです。
それはやっぱり「猥雑(わいざつ)な雑菌まみれの、欲望の中枢に向かうスピード感」だったり、コマーシャルやマスメディアの中にしか存在しないような、時代にきらめくものってあるじゃないですか。それは、当の現場にいないとつかまえられない。もちろん、その濁流にのまれながら波乗りしていく筋力というのは特殊なものです。でもそういったことの楽しさを知ってしまうと、その危ない波に乗りたくて仕方がなくなる。自分の作品をただ孤独に作っているだけでは物足りない、全く違う側面があるからです。
例えばみんなの目にさらされて成立している仕事の人たち、アイドルや役者の方たちを撮るのはものすごく刺激的です。シャッターを切る、会話する、そんな中から受け取れるものが多くある。だから「私はこうしたいんです」と言うことはまずありません。向こうの希望は一回のみ込む。そうやってコマーシャリズムでつけた筋力は、映画作りなどにも必要だと思っています。
女子力は使おうね
アジアで撮影していた時、私は「あなたたちの国に興味がある」「とても好きだ」と会う人ごとに言っていました。スターから現場のスタッフにまで。それで誰もがハッピーになり、仕事がうまくいった気がします。思えば私は、今までどんな仕事の時にも相手を喜ばせる、立てる、気遣う、そういうことが全然苦ではなかった。なぜなら昔からずっとそうやってきていたんです、たぶん女の子だから。
また、昔の私はデニムにスニーカー、髪は引っ詰め、ノーメイクで現場に行っていました。自分がキレイにしたって写真がキレイになるわけじゃないと思って。でもある時ふと、私がキレイにしても写真が悪くなるわけじゃないし、自分の容姿を放っておくのは怠慢だわと思ったんです。それでスカートやヒールに変えて現場へ行くと、最初はみんなギョッとし、やがて飽きていき、この人はそういうキャラだと思うだけになる。だからOLさんだって、可愛いセーターを着るくらいの小さな冒険から始めていいと思う。
よく「女子も入れておくか」と「おみそ」的にポジションを与えられることがあります。理由は何にせよ、呼ばれないと始まらないので、そこから良い関係を結んでいく。そうやって努力することで仕事の筋力はつきますね。(談)