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父のことが大嫌いだ

言いたいことがあっても、直接言ってこないから。「東京の大学に行く」。3年前そう伝えた時も、背を向けて新聞を読んでいるだけだった。それ以来、父とはまともに話をしていない。きのう母に電話で「就活の準備はしているの?」と言われた。突然そんなこと聞いてくるから、ギクッとしちゃった。でも「とりあえず新聞読んだら?初めは『天声人語』だけでもいいのよ」だなんて、やっぱりね。父が言わせたに決まっている。そういうところがイヤなんだよ。自分で言えばいいじゃない。

就活の心配なんて大きなお世話…と言いたいところだけど、実は焦っている。友達は皆、志望業界を決めてOB・OG訪問を始めているのに、私はやりたいことさえ見つかっていないから。業界研究の本を読んでも、まだピンとこない。他にヒントはないのかな。そんなことを考えながら、ふと、読まずに置いていた新聞を手に取ってみた。天声人語、懐かしいな。大学受験の時はお世話になりました。でもいま読んでみると、印象が結構違う。政治や経済だけじゃなくて文化も世界のことも載っているんだ。

毎日少しずつ、理解できる記事が増えていく。不思議な感覚。頭の中で、世界が広がっていくみたい。興味のある記事はスクラップすることにした。そうしたら段々、自分のやりたいことがわかってきた。新聞を申し込もうと言ってくれたのは、父。そっか、私のこと考えてくれてたんだね。就職活動が始まった。他の学生たちも新聞は読んでいるみたいだし、うまくいくことばかりじゃない。でも、新聞が毎朝届くと、「きょうも頑張れよ」って、父からエールを贈られているようで心強かった。

就職前最後の春休み。私が帰っても、あいかわらず背を向けて新聞を読んでいる父。まったく…。でも、ありがとう。夜になったら一緒にお酒を飲みながら、話そうよ。共通の話題は、たくさんできたから。

新聞なら、言葉にできないエールを贈れる

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