「真っ当な目的のチームを作ろう」
西條 剛央が語る仕事―4
一人の行動から社会は変わる
目の前の理不尽を一つ減らすことはできる
よりよい社会になっていくためには、90点のところを95点にするよりも、誰がどう見てもおかしい、マイナス千点のような理不尽を減らしていくことの方が大事です。
自分が少し動いたくらいで、社会なんか変わらないだろうと思う人がいるかも知れません。でも例えば、電車内で明らかにつらそうな人が目の前に立っていたので、席を譲ったといったことはあると思います。それは、けがをしている人が目の前で立ちっぱなしになるような理不尽を、あなたが一個減らしたということに他なりません。
席を譲られた人は「この社会も捨てたものじゃないな」と思うでしょうし、その人も大変そうな人に席を譲る人になるでしょう。「社会を変える」というと雲のように捉えどころがないような気がするかも知れませんが、真っ当な人やチームが増えていけば、その分だけ社会が良くなるのは確かなのです。
一人ひとりの仕事の在り方が社会を変える
「社会が変わること」を点描画としてイメージすると分かりやすいかも知れません。大きなキャンバスの上にポツンポツンと点のように何かをやる人が出てきて、最初は「そういう人が増えてきたね」というぐらいなのですが、ある時、何かの絵が見えてくる。これは「ビジョン」ですね。
そして「この次の時代のこのビジョンを実現しよう」と仲間を集め、意識的に描いていく人たちがあちこちで出てきて、それらの活動を見た隣の人も影響を受け、オセロゲームのようにパタパタと変わっていく。そうして気がつくと「時代は変わったね」となる。
ですから、大事なのは、この絵の点の一つひとつである僕らが行動してみることです。全員がビジョンリーダーになる必要なんてない。真っ当なことをしているなと思う人を応援したり、ついていくことだけでもいいんです。
実際に僕も行動したことで、何千人という人が協力してくれ、日本最大級のボランティアプロジェクトとして、3千億円以上を集めた日本赤十字社でもできなかった、物資、家電、重機免許といった50以上からなる総合支援が実現されるのを目の当たりにしました。著書『チームの力』にも書きましたが、人間は関心に応じて価値を見いだすため、行動していると、同じ関心を持つ人たちと自然とつながっていきます。「類は友を呼ぶ」は本当なんです。
「何のために働くのか」と問う若い世代にとって、ワーク・ライフ・バランスという考え方は既に当たり前の感覚になってきていますし、多様な働き方があると分かったことにより、従来の「組織」に依存するという人も減ってきています。本当の意味で自立した個人やチームが増えることで、「組織」によってもたらされる圧倒的な理不尽は減っていくことでしょう。
また、僕のように40歳ぐらいになると、本当はやった方が良いと思っている課題としっかり向き合い、もう一度成長し直すことが、若い人の足を引っ張らないためにも必要なことのように感じています。僕は今、「構造構成主義」を世界に伝えるために、これまでサボってきた英会話を特訓する日々です(笑)。結局、日々の積み重ねが個人や歴史を作ると思うので。(談)