「思春期世代から離れずに書く」
辻村 深月が語る仕事--4
一人の心に届けと願う
現実を生き抜く力の一部に
2004年のデビューから十数年、小説家として仕事をしてきました。私自身が生きづらさを感じていた思春期をテーマに書き続け、「教室小説」とジャンル名を頂いたことも。そしてそれらの作品とはまた別に、仕事とは何か、働くって何なのかというところまで迫りたくて手掛けたのが、『ハケンアニメ!』という「お仕事小説」です。
子どもの頃から本やアニメに夢中で、それらの世界に力をもらってきた私は、作り手の現場を描いてみたかった。それにはまず取材をしなくてはなりません。でも、どうやって誰に会えばいいのかも分からない。担当編集者さんの昔の縁を頼って、少しずつアニメ業界に入り込んでいきました。
アニメの現場では監督以外にも、プロデューサーやディレクター、広告担当、制作進行など多くの役割があって、作品を作るのはチーム作業。同じ創作でも、小説の現場とは全く違いました。時にぶつかったり、スケジュールや予算の問題に苦しんだり。そうした日々を乗り越えるのに必要なのは、スタッフお一人お一人の「必ず、このアニメ作品を必要とするファンに届けるんだ」という熱意でした。どんなポジションにいても、自分が諦めたらいい作品にできないと、持てる力をふり絞る人たちのプロの仕事に圧倒されました。
今や日本のアニメは世界で愛されています。「世界」と言うと漠然としてしまうけれど、昔も今も、本やアニメは作品と読者、作品と視聴者が常に一対一で、「これが大好きだ」という熱でつながっているんです。
『ハケンアニメ!』の中で私は、主人公であるアニメ監督の仕事観に私自身の創作への思いを込めました。「この作品が、現実を生き抜く力の一部になれればいい」と。本やアニメのような一人でできる楽しみはしばしば「現実逃避」のような言葉で表現されてしまいますが、作品の向こうにいる作り手とつながり、現実をより豊かに生きるための力をもらうことなんですよね。
希望を希望のまま提示する
私は藤子・F・不二雄先生の漫画『ドラえもん』が大好きですが、この作品からエンターテインメントが持つ力と基本の在り方を教えてもらったと思っているんです。数ページの短さの中にもベーシックな展開やちょっとしたひねり、そして笑って元気になれる要素が全部詰まっています。物語を作る上で、希望を希望のまま提示するのって実は難しいことなんだろうと思うんです。恥ずかしかったり、奇をてらって絶望を表現する方がかっこいいという風潮があったりして。でも、私はベタに表現することに抵抗がないし、それが一番強いと信じられる。それはきっと『ドラえもん』が好きだから、自然と身についたことなのだと思います。
人の喜びや悲しみ。生きるつらさや息苦しさ。思春期は特にその気持ちを敏感に感じます。多感だった私のその時期に寄り添ってくれた、多くの本やアニメ、映画やゲーム、音楽の全てに感謝しています。大人になった今、それらがたくさんの大人たちの真摯(しんし)な仕事によって自分に届けられていたものだったと実感し、私の本もまた誰かにそんな届き方をしてくれたらいいと、作り手の一人として切に願います。本を読んだ次の誰かが作り手の側に来てくれたら、なおうれしいですね。(談)