「『圧倒的努力』をしろ」
見城 徹が語る仕事―3
他者への想像力はあるか
刺激と発見を与える人になれ
どんな仕事も、一人で完結するものではない。だから、人を動かすことが大前提となる。そのために必要なのが他者への想像力だ。
編集者である僕は、作品を書いてもらいたい作家や表現者に対して徹底的に思いを巡らせます。彼らの過去の作品、雑誌インタ ビューでの発言を調べ尽くすのはもちろん、一緒に飯を食べたり、ゴルフをしたりしながらも、この人はかつて何に苦しみ、どんな屈託を持ち、どんなことに失 望するのかといったことを想像し続ける。その中から、その人自身もまだ気づいていないものをえぐり出し、僕が思う作品にしてもらうにはどうするかを考える わけです。
若い頃、僕は作家の五木寛之さんと仕事がしたくて作品が発表される度に5日以内に手紙を書きました。小説だけでなく、雑誌 に掲載されたコラムやエッセー、対談も必ず読んで感想をしたためた。とは言え、ただ「良かった」では意味がない。作家にとって新しい発見と刺激がなけれ ば、僕が指名されることはないので、おべっかでも批判でもなく、本人すら気づいていない急所を突くようなことを毎回2日ぐらい徹夜して考えました。17通 目でようやく返事が来て、25通目で初めてお会いし一緒に仕事ができる関係を築くことができました。
自分にどんなに素晴らしいアイデアがあっても、相手が全く違うことを考えていたら僕は何の作用ももたらさない。相手の気持 ちを想像し、その人が喜ぶような新たな刺激と発見を与え続けなければなりません。「圧倒的努力」ととてつもない熱狂と共に。そこまでやって、ようやく人は 本気で動いてくれるのです。
楽な努力では結果は出ない
よく「努力することに意味がある」と言われますが、そんなのは単なる人生論。成功という結果が出ない努力には意味がないと思っています。だから僕は 結果を出すまで諦めずに努力する。口癖のように「憂鬱(ゆううつ)でなければ仕事じゃない」「苦しくなければ努力じゃない」と言っていますが、それは、つ らくて憂鬱な仕事をやり切った時、結果が必ず表れることを身をもって知っているからです。
僕は女子プロゴルファーと会う機会が多く、成績が不振だったりすると相談されることもあります。そんな時「一番苦しい努力 をした人がその年の賞金女王になる。君がランキング35位なら、君よりも苦しい努力をした人が34人いるということ。結果が全ての世界だからそう考えるし かない」と言います。努力ってそういうことなんです。一番憎むべきは、小手先の帳尻合わせとか表面的な取り繕い。そんなことに時間を掛けても結果は出な いって実はみんな薄々分かっています。
幕末の思想家・吉田松陰の有名な歌に「かくすれば/かくなるものと知りながら/やむにやまれぬ/大和魂」があります。死罪 になると分かっていても、やむにやまれぬ志を貫く覚悟であるということを詠んだ歌です。たとえ多勢とは異なるベクトルだったとしても、自分の信念に沿い突 き進む。それが自分を追い込むということです。ごまかさず、自分が苦しいと思う方へかじを切るように進んでみる。そうすれば、努力の質も変わってきます。
出典:2015年5月24日 朝日新聞東京本社セット版 求人案内面