「『よく生き、よく死ぬ』課題を探せ」
佐渡島 庸平が語る仕事―4
見せたい日本の本気仕事
信用の蓄積に知恵を絞る時だ
僕は自分の独立に伴って、出版社勤務の時代に担当していた何人かの著名なマンガ作家たちとエージェント契約を結ばせてもらいました。日本ではまだほ とんど例のない、作家個人の仕事全般にわたって関わっていく仕事です。その方々にこの先10年、20年と国内外の第一線で活躍し続けて頂くために、ずっと 離れることなく伴走していきます。
その重要な役割の一つに、日本人が今まであまり注力してこなかった「ブランド」というものをどう伝えていくかという課題がありますね。
エンターテインメントのコンテンツはもちろん、昔から日本に伝わる製品やいい仕事も、誠実に作るだけではなく、しっかりと存在を主張しなければ生き残りにくい時代です。例えば世界的なハンドバッグメーカーなどは、シーズンごとの新作だけではなく定番が売れ続けています。
では、その定番を支えているブランドの本質とは何か。僕は、気が遠くなるほど長く積み上げてきた「信用の蓄積」だと捉えています。
それが、スピード化したこのITコミュニケーション社会の到来によって、僕らでも欧米の老舗に追いつける時が来ました。一度でもヒットした作品や製品はネット上の口コミで評判が伝わり、素早く世界規模で成功や信用がストックされていきます。
仕組みが変わった現在、日本も「品質が良ければ分かってもらえる」と、じっと求められる日を待つのではなく、自分たちからアクションを起こすことが、やるべきビジネスの要だと思います。存在を知られなければ無いと同じですからね。
いつかマンガ作家もノーベル文学賞受賞へ
日本の全てが本当に海外で評価されるものばかりではないかも知れませんが、マンガ作品のレベルは世界で群を抜いていると思います。しかし、まだまだ 知られていない、見てもらえていないのが現状ですから、出版社とは違う立場のエージェントとして、僕らが、素晴らしさを伝える手を打っていきたい。
まず、作品を作り出す時も、作家と編集者でどのようなものにするか構想を決めてから、それにぴったりの海外の媒体を探すという順番です。その方が、掲載媒体が決まっていてそれに合わせるよりも、作家の才能を生かせる長期的な作品になるからです。
読んでもらえれば、面白さをダイレクトに分かってもらえる。しかし、日本ではほぼ誰もやっていない状況なので、僕らが先駆けていこうと思っています。
いつか、僕らの担当するクリエーターが海外の雑誌の表紙を飾ったり、20年後ぐらいにはマンガ作家がノーベル文学賞を取ってもおかしくはない。別に荒唐無稽でも何でもなく、日本のエンターテインメントや文化にはその力があり、そういう高みまで目指せます。
僕は、どんな時でも本気の人と一緒に仕事をしたい。「他人のために本気になれるか」を人生の課題にしているので、本気で仕事をする作家に出会い、そ の人のために頭も行動もフル稼働し、それを糧にして自分の成長につなげていきたい。でも簡単には出会えないから、たくさんの人に会うことを大切にしている のです。
出典:2015年3月22日 朝日新聞東京本社セット版 求人案内面