「なぜこれを選ぶか深く問おう」
坂上 陽三が語る仕事--4
選択する力を持ち続ける
真のニーズを見失わない
いくつものゲーム制作を手がけ、やがて、自分は目的に沿ってプロジェクト全体をまとめるのが向いていると感じてプロデューサーになり、今に至っています。最も心しているのは、クリエーターたちが、周囲からプロジェクトに持ち込まれる複雑で様々な事情にとらわれずに、自分が面白いと感じる要素は何か、なぜ引かれるのかを何度も考えて本質を追い求め、自信を持って仕事に生かせるようにすることです。
プロデューサーは孤独になることが多い役割です。開発の人たちには「これじゃ売れない、もっと売れる要素を考えて。でもコストは下げて」と言い、営業やセールスの人には「今の品質では出せません。もう少し開発の時間を」と頼む。どちらにも敵のような立場になりながら、双方が納得できるようにうまくまとめなくてはなりません。僕は最初の数年まで、そのバランサー的な能力でやっていけるという意識がありました。
でものちに、一つ抜けていることがあったと気づいたのです。あるアクションアドベンチャーゲームを制作していた時、色々と難しい課題があり、バランスを取るやり方では行き詰まってしまいました。プロジェクト内ではこれでいけるとまとまった作品でしたが、お客さまのニーズに応えきれたかどうか不安を感じる。「プレーヤーが楽しめるのはどちらか、分かりやすいのはどちらか」と十分に考えたつもりでした。でもやり残しがあったのです。ゲームは作品ではなく、「商業作品」であると思い知りました。
きっとどんな仕事でも、共有された目標やテーマが、いつの間にか日常業務に追われてBtoC(一般消費者向け)から離れてしまうのでしょう。多くの会社ではまず目的があって、実現するための目標が立てられます。それがまた次の部署に下りて、どんどん細分化された目的と目標に散らばっていくわけです。だからマネジメントをする上司は、自分たちがなぜこれをやるのか、一つ上段の目的から部下に理解してもらわなければ、共通の目的にたどり着かないと思います。
迷ったら必ず自分と話そう
プロデューサーとして多くの仲間と仕事をしてきましたが、年齢や立場に関係なく大切なのは主観を持つことだと感じています。他の人の意見や情報などをきちんとインプットした上で、さて自分はどうしていきたいのかを必ず考えること。どんな場所でも誰の前でも「私ならこう」と言えるように。そういう人が信頼され、やがて人を巻き込む存在になっています。
そのために、自ら選択するという習慣をつけてほしい。例えば指示を受けて作った資料を上司に見せる時も、2案用意して「自分はこちらがいいと思います」と言い添えるのです。さらに極端な話ですが、今の状況が嫌だとか、転職が頭をよぎるとかというなら、自分はいったい何を否定しているのかをはっきりさせてから、やりたいことと比較し、なぜこっちなのかを問い続けてほしい。
たとえ一人で決めるのが不安だとしても、まずは素直に自身と対話してあなたの答えを出してみてください。そして自分の選択に従って行動してみる。その体験の積み重ねが仕事に生きていくと思います。(談)