「絆と誇りが、きっと働く原動力」
山根 弘行が語る仕事--2
人の心はどう動くのか
「背中を押す要素」が鍵を握る
現在私は、技術力と専門性を備えたエンジニアを様々な分野に派遣する会社に勤務しています。さかのぼって新卒時は、求人情報誌の広告営業で3年間ほどキャリアを積み、その後、得意先から人材採用の仕事に誘われ、最初の転職をしました。営業には自信があったのですが、任されたのは採用マーケティングの仕事。求職者の心に響く言葉やクリエーティブ力が求められましたが、私はまだまだ力不足でした。
先輩や上司、役員の仕事の質や自分との視座の違いをまざまざと見せつけられ、ついていくのが精いっぱい。加えて、衝撃を受けたのは仕事の速さです。週刊で発行する求人情報誌の仕事は素早さが勝負と感じていましたが、イメージ的にはその5倍速くらい。アウトプットの方向性が決まった瞬間、2時間後には資料を作っておいてと言われる、そのスピード感は圧倒的でした。営業が取ってきたニーズを受け、他社に先駆けていち早くメディアに広告を打つという苛烈(かれつ)なビジネスなのです。
しかも人の心に刺さる訴求が重要です。対象となる仕事の内容や地域性に合った「背中を押す要素」は何か。北は北海道の旭川、南は沖縄まで60ものメディアに合わせて小さな広告紙面を的確に埋めるタフな仕事でした。日本各地の地域性を知るために全国へインタビューにも向かいましたが、予想以上に仕事への考え方に違いがあって興味深かったですね。
例えば沖縄は観光業がメイン産業ですが、県外に出て別の仕事を希望する若い人がかなり多い地域だと思います。でも、一人では心細い。それでカップルが一緒にできる仕事を企画してみたらとてもたくさんの方々が応募してくださったのです。就業先のシフトも連動させてライフスタイルにヒットする提案をした一例ですが、このように仕事選びは一人ひとりが目指す暮らし方と深くつながっているのだと知りました。
メーカーの技術はエンジニアに宿る
やがて会社のM&A(合併・買収)によって、製造業中心から技術系やIT系へと事業構成が変化すると共に仕事が拡大。ただ、技術系分野の採用業務の立ち上げを命じられた時は、正直なところ優秀な技術者への苦手意識がくすぶっていました。なぜなら私には、学生時代にエンジニア職を希望しながらも自信がなくて諦めたという経験があったからです。
しかし、大手メーカーに派遣で従事し、最前線で10年以上も得意先から信頼されている数え切れない優秀なエンジニアたちと話して気づいたのです。誰も学歴や高成績だけで優れたエンジニアになれたわけではない、と。メーカーの技術ノウハウはマニュアルを読んで身につくものではない。現場でモノづくりに向き合っているエンジニアから、その頭の中に蓄積されたものを直接教わり、それによって技術力は高まっていく。だから人とのつながりを大事にし、先輩から可愛がられてチャンスをもらい、何度も壁を乗り越えたことで今に至っているのです。
自分が学生時代に思い込んでいたエンジニア像とは違うキャリアがそこにはありました。技術者派遣は単なる人材提供ではなく、エンジニアの技術力を高め、更なる雇用創出を実現できる。担っている業務の真価に気づいた瞬間でした。(談)