仕事力~働くを考えるコラム

就職活動

「企画アタマが生き残れる」
増田 宗昭が語る仕事―1

就職活動

ゴールイメージの力を持とう

ものを構成する要素を論理的に知りたかった

あれは1970年、自分は一体何をやりたいのだろうかと考えていた大学2年の頃です。浜野安宏著『ファッション化社会 欲望の先取り』という本に目を開かされた。世の中は必ずファッション化社会になる、デザインが大事なんだと書かれていました。僕もその通りだと直感し、デザインが一番活(い)かされるのは服だ、それなら布から服になるプロセスはどういうものか論理的に基本を知っておこうと思った。僕は、誰かが作って成功したものをハンドリングするだけでは仕事に応用が利かないと判断したんです。

それで大学在学中、「(ファッションの)要素を体得するため」に洋裁学校の門をくぐった 。今のデザイン学校とは違い40年以上前の洋裁学校は、お茶、お花と並ぶ花嫁修業のための場所。男はもちろん僕一人。レスリングをやっていた体の大きい学生が交じっているのは、いかにも異様です。最初の授業は採寸。先生が「はい、皆さん下着になって、まずネックポイントからバストポイントまで測りましょう」って。女性に交じっての採寸授業に初っぱなから面食らいました。

でもここで、僕は自分の才能を発見しました。当時の洋裁のプロセスには2種類あって、一つは図面を描いてから服を作るやり方。もう一つは立体裁断で、サテン生地をボディーに掛け、ピンを打って服を形作り、それを切ったものから後で図面を起こす方法です。最初に図面を描くのは、企画でいうと帰納法的。直感のゴールイメージからものを作るのは、演繹(えんえき)法的です。僕自身が持っているのは、ゴールイメージ優先の演繹法的才能だと分かったのです。

企画ありきを体現した初めての店

ファッションは好きだし、周囲の評価も高く、これでいけると思っていた矢先に天才肌のデザイナー高田賢三さんや三宅一生さんが登場してきた。僕は考え直してファッションメーカーに就職し、任された商業施設プロデュースの仕事を思い切りやって成功させ、10年近くが過ぎました。

その頃、大阪府枚方市の実家近くで貸しレコード店「LOFT」(TSUTAYAの前身)のプロデュースをし、母親、姉、知人総出で運営してもらったんですね。そもそもは、例えば「恋人をドライブデートに誘って、気に入った曲だけを自分で編集してテープをかけたらステキだ」とゴールの情景が浮かんだことが発端です。でも選曲のためにLPレコードを何枚も買ってくるなんて財布が持たない。貸してくれる店があったらいいよな、と。これはきっと楽しいライフスタイルになる。喜んでもらえる新しい日常のために、その構成する要素を徹底して考え、これが当たりました。

僕は小さい頃から父親がお金で苦労する様子を見てきたので、事業の大変さは身に染みています。中途半端はダメだと、30歳過ぎの男が持っている資産の全て、つまり「時間」を使い切ることに決めて退社し、83年に起業してTSUTAYAが走り始めました。

今日まで僕の仕事の根底にあるのは、今を生きる誰もが「カルチュア=文化」を「コンビニエンス=便利に利用できる」ように、インフラ(企画)を作ること。ハッキリとしたゴールは今も変わりません。

ますだ・むねあき ●カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)(株)代表取締役社長兼CEO。1951年大阪府生まれ。同志社大学卒業後、(株)鈴屋に入社。同社退社後、83年に「蔦屋書店 枚方店」開業、85年にCCC設立。運営する「TSUTAYA」は全国1400店舗以上、共通ポイントサービス「Tポイント」は会員数約5400万人に上る。2011年「代官山 蔦屋書店」、13年「武雄市図書館」、15年「二子玉川 蔦屋家電」を手がける。著書『知的資本論』『代官山オトナTSUTAYA計画』ほか。
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