「企画アタマが生き残れる」
増田 宗昭が語る仕事―2
企画力は「快」をかなえる
今、大量の商品を前にあなたはときめくか
僕がTSUTAYAの運営を始めた時に考えたのは、一人の男性が好きな女性のために、音楽を編集してドライブを楽しくする、というリアルなシーンでした。レコードを何枚も買うのは高いけれど、廉価で借りてなら実現できる。それは、お客さんは何を求めているのかということを考え抜いてのことだったのですね。
振り返れば、実家は決して裕福ではなかったのに、なぜか僕の学生時代に両親がスポーツカーを買ってくれたりしました。それは、頭ではなく実感で「楽しいこと」を覚えておけという教育だったのかもしれない。つまり、全ての商売、仕事は「人の快」をかなえることだという意味だったのかと思えるんです。
人の想像の外にあること、潜んでいる望みを実現して、日常の中に取り込むことができたら、仕事はうまくいく。でも簡単に発想は湧いてこないから、日頃から自分の暮らしの周辺をよく見て考えることです。例えばあなたが「あの店はもう少し営業時間が長いといいのにな」「この商品は、ここを改善すれば使いやすいのにな」といったことを感じたらメモを取っておく。そしてなぜ自分はそう感じるのか、理由を追い求めてみてください。
日本はものづくりの力が、本当に優秀です。量販店やスーパーには安くて丈夫な家電品、日用品があふれている。そのほとんどがいい製品だから、インターネットで手軽に購入しても安心なので、買い物は本当に便利になった。でもそこに、ドキドキ、ワクワクするような買い物の喜びを感じていますか。もしそうでないとしたら、あなたは何が欲しいのか。考え始めることです。
パラサイト社員になるべからず
心すべきは、「企画は特別な人間がやるもの」「その担当者が進める仕事」と思わないこと。近いうちに人間ができる主な仕事は、企画に絞られてきますよ。例えば経理部門の日常業務は会計ソフトが戦力になっているから、そこに企画を考える余地はないかと言えば、それは違います。疑問を持って数字を読み込んでいけばいい。「この固定費は何だろうか、何を生み出している経費なのだろうか」「こんなに高い家賃を払い続けるなら、我が社ならではの別の拠点があるのではないか」などと、考えを広げていく。
つまり、頭を別の位置に持っていってみると、今までの当たり前が疑問だらけになるんですね。言われたことだけをするパラサイト社員のままでいたら、これから必要となる企画力は身につかないのですが、どんなささいなことでも「さて、どうしたら良くなるか」と突き詰めていくと、思いもよらないアンテナが動き始めます。
それは、お客さんの声を聞いて小手先の販売促進に走るのとも違います。また、企画の本を読んですぐできるようになることでもない。その先の、お客さんがまだ気づいていない気分まで深掘りして、サプライズを届けることなんですね。
大切なのは、パソコンの検索じゃどうやっても見つからない、今の時代を生きている人が欲している次の「快」を探し当てることです。
出典:2015年7月12日 朝日新聞東京本社セット版 求人案内面