「企画アタマが生き残れる」
増田 宗昭が語る仕事―3
斜陽の分野はしぼむのか
時代の流れだからと思考を投げますか
人が本を読まなくなった、と言われるようになりました。実際の数字を見ても出版市場の規模や書店数が減少の一途をたどっている。マスコミは出版不況や活字離れを報道するし、電子書籍が出てきたし、さらに、必要な本ならインターネットで買うという人は多い。確かにリアルな街の書店が消えていく実情も目の当たりにします。
「でもなあ」と僕は思っていました。本やエンターテインメントがない暮らしなんて、僕たちの世代には考えられない。六本木に「BOOK & CAFE」をコンセプトとした大型書店を出して成果を得られたことから、さらに次のコンセプトの提案を考え続けていました。大きな課題を抱えている時、僕は必ず、まずは自分自身がどう感じているのかを考え、核心を捕まえようとします。
ある日、大好きな代官山のカフェで、企画書を書いたり、アイデアを思い巡らせたりしていた時に、ふと、道路を挟んだ向かい側にある、トタン塀で囲まれた場所に立つ何本もの大きな木が目に入りました。広大な敷地に森のような木々、静かで落ち着いた品格のあるたたずまい。「大人世代」である僕たちが好きな場所だと直感して、地主さんにすぐに会いに行きましたが、「売る気はない」と。僕が来る前に73もの会社が売って欲しいと頼んできたが断っていたそうです。
その日から2年間、「書店が創る街」を代官山のこの地から表現したいと地主さんの元へ通い続けました。かつては水戸徳川家の邸宅があった都心の一等地、敷地約4千坪。この素晴らしい環境で好きな本を広げ、店内でコーヒーを飲みながら過ごせるぜいたくな大人の空間「代官山 蔦屋書店」構想でした。
ビッグデータと情報は取りに行け
本が読まれなくなったのではない。本を読みたくなるようなライフスタイルが手に入らなかったのだと、それこそ考え方も書店企画も真剣勝負で挑みました。地主さんが「増田さんには負けました」と譲ってくださったのは、僕の「夢」が本気だったからだと思います。
しかし企画の素材は何かと言えば、夢に加えて、確かなデータと広い情報です。アイデアは情報でひらめき、それを企画に練り上げていくにはビッグデータの裏づけがいる。気になったデータは、社内、官公庁やメディアが発表する数字まで蓄えておき、また、思いついた考えは徹底的にメモに残すこと。
でも僕は、データと情報の具体的な探し方を教育したりはしません。なぜなら、企画というのはあなた自身の感受性から始まるものだから。「あなたの個性とは何か」なんて教えられないのと同じことですね。自分をとがらせ、それを実現するための資材を、あらゆる所から自分の磁石で拾い集めてくるんです。
そして、集まったものの収拾がつかなくても、僕はそのまま課題を持って眠りに就く。不思議なことに脳は、睡眠中に情報を肉体化してくれるようです。なかなかまとまらない企画に悩んでいる時でも、目覚めると自然に整理されているという体験を何度もしました。なぜか。おそらく自分の思考が一貫しているからです。
出典:2015年7月19日 朝日新聞東京本社セット版 求人案内面