「企画アタマが生き残れる」
増田 宗昭が語る仕事―4
仕事のチカラは、心に宿る
最後は人柄こそ頭脳に勝っていく
僕には、一緒に企画の仕事をする人選の基準があります。四つのパターンがあり、・頭が良くて心もいい・頭が良くて心はいまいち・学力は真ん中でも心がいい・学力も心も怠けている、というもの。
もちろん「頭が良くて心もいい」という人がベストだけれど、なかなか少ない。だから「学力は真ん中でも心がいい」人を探します。なぜなら、学んだことは時間と共に古くなっていくけれど、「心」つまり人柄はずっと変わらない。これがとても大事なことだからです。
コンピューターの技術革新がとてつもなく早いため、頭脳労働を任せられるジャンルが飛躍的に増えました。必死で習得した専門知識が、明日はパソコンでできてしまう時代です。それに「頭」というヤツは、自分自身のために機能していると思います。「こんなことをしたら失敗するかも」とか「人からどう思われるだろうか」とか、全て自己に向いていく。エゴイスティック(利己的)な思考回路です。
でも、「心」は利他に働きます。人を大切にするチカラがある。例えば、場がしらけてくるとちょっと盛り上げるムードメーカーのような人もそうですね。一方、切れ者でエゴイスティックにリーダーシップだとか言って個人で突き抜けたい人は続かない。チームワークを支える「気持ちの底力」を知らないからでしょうね。
「心」がいい人をどう見極めるかと言えば、その人と居ると居心地がいいかどうかに尽きます。企画の根底は「もてなし」であり、僕が考える「企画アタマ」は、それをきっちり実現へと落とし込める能力です。
新しい価値を提案する。その壁は厚いけれど
「好きなことを仕事にしたい」。いいですね。「自由な発想を形にしたい」。まあ、分かります。僕も自分の直感を信じて突き進んできましたから。しかし誤解してはいけない。自由に仕事をするという意味は、俺流な好き勝手をやってみることではなく、本当に社会に喜ばれる課題を自由に選んでいいよ、ということです。
人々の暮らしを居心地良くするために、ターゲットに心を寄り添わせて感じ、考え抜いた企画をやり遂げていくという「自由」です。実現するためにはマネジメントや資金繰り、周囲の協力などを始め、自由などとはほど遠い様々な現実が横たわります。くじけそうになることが何度あるか想像も尽きません。
その困難なプロセスを乗り越えていけるのは、人に喜んでもらいたいという心意気しかない。世の中には、「それで失敗したらどうするんだ」とか、「責任は取れるのか」とか、自分はやったこともないのにブレーキを掛けるような人が圧倒的です。だから、誰かのために役に立つのだという心棒がないと折れてしまいます。
ノミは自分の身長の100倍以上もジャンプできるそうですが、閉じ込めた容器の上にフタをすると、長いトライアルの末に諦めてしまい、フタを取り外しても飛び出さなくなるのだそうです。それと同じことが私たちにも起きる。そこを飛び出せる唯一のチカラは、自分は必ずそれを持っていると信じることではないですか。(談)
出典:2015年7月26日 朝日新聞東京本社セット版 求人案内面