「人を喜ばせる創造を仕事に」
猪子 寿之が語る仕事―4
「美意識」を次へ進めるよ
アートで「カッコいい」の価値観を変えていく
僕たちチームラボは、アーティストでもあります。もちろんアート以外の作品もたくさん手がけているけれど、全ての仕事を通して目指しているのは、これまで人が体験したことのないような感動を呼び起こす、そんな領域を担うものです。今日までずっと美の価値とされてきたものとは別の「カッコいい」を、世界に認めさせたいと考えている。
いったいそれはどういうことか。20世紀までは、世界の価値観の基準って多かれ少なかれ欧米だった。仕事観やライフスタイル、美も引っくるめて、追いつきたいカッコ良さはそこにありました。
でも、アジアが力をつけてきた今、欧米の基準にはなかった美が、新鮮な感覚で受け止められている。それは、国ごとのローカル文化が珍重されるという意味ではなくて、今の時代を生きる人が「これ、楽しい」「なんか面白いなあ」と直感的に魅了されてしまうものです。
例えば米国の芸術家アンディ・ウォーホルは、女優マリリン・モンローなどの1枚の写真を様々に加工して、大量生産でもカッコいいよ、と時代の価値観を変えたよね。キャンベルのスープ缶もウォーホルの手によって堂々と表現になった。
それは、当時のお金のない人が買うような安い大量生産品でもカッコいいと、アートが時代の概念を変えたから。ほら現代では、個人用の仕立て服より、大量に出回る既製服の方がお気に入りのほとんどを占めるようになったというように、「美意識」は進むんです。僕たちもそういうアートによる影響力で、人を感動させ、楽しくする役回りを仕事としていきたい。
達成したい社会と「美」をつなげて使え
この話はどこかから叱られるかも知れないけれど、お金を積んで手に入れた欧米の名画を会社のロビーに飾るのは、カッコいいことでしょうか? 僕には、もうそうやってアートを眺めるだけのものにしてしまうような時代ではないと思えるんです。というか、アートとの向き合い方や使い方を、もっと積極的に仕事と結びつけたらどうか、と提案したい。
誰もが、こんな社会になったらいいなというビジョンを直感的に持っていると思うのですね。パワーで動いてきた20世紀とは違う、新たな社会を求めているでしょう。その実現のために「美」の用い方を工夫し、泥臭く武器として取り入れていけば、ビジネスでも長期的な競争力になるはずです。なぜなら人間は、美しいもの、カッコいいもの、面白いものが大好きだから。
僕は、日本の美術はとても素晴らしいと傾倒していて、チームラボで制作するアート作品のモチーフに日本画や書などを生かしています。欧米の美とは明らかに違う、生命や自然の描き方、色、そして風が通うような自由さ。デジタルテクノロジーを使って、現代の人に、新たにその魅力を伝えるのは本当に面白い仕事です。
そしてそれをもっと大きい話にすると、どういう「美」を推し進めて世界に体感してもらうと、日本という国が生き残りやすいかという戦略にもつながってくるわけです。
「おおっ!」と人を喜ばせる創造は、様々な分野の成功に力を与えますよ。
出典:2015年6月28日 朝日新聞東京本社セット版 求人案内面