それは、ほとんど同時だった。
昨年の就職活動が始まってすぐの12月、大学3年のAさんは別の大学に通うBさんと、ある鉄道会社の会社説明会に一緒に出席しようと、その手続きをオンラインで進めていた。
カフェの店内だったかそれとも屋外だったか、場所はよく覚えていないが、2人ともそれぞれ自分のスマホに向き合い、プレエントリー時にもらったIDとパスワードを入力。マイページに入ったところで、Bさんがつぶやいた。「もう満席になっている……」。
「えっ」。Aさんは心の中で驚きの声をあげていた。自分のページでは「予約中」。つまり、出席可能ということだ。タッチの差で自分が最後の1席を取ったとは考えられない。そこで、はたと気づいた。「これが、学歴フィルターか」。プレエントリーでは、名前や住所とともに在学中の大学名も記入した。2人の扱いに差が出るとしたら、これだ。昨夏、別の会社での1週間のインターンシップで仲良くなり、それ以来、ひんぱんに就活の情報交換をしてきたBさんとの間に、気まずい空気が流れた。
MARCHや日東駒専、大東亜帝国……。大学受験の難易度などに応じた私大のグループ分けと同じように、就活でも企業が大学を選別し、学生の採用枠を決めているとされる。そんな噂を聞いていたものの、本当かどうか知るよしもなかったAさんだったが、就活を始めていきなり冷酷な現実を知ることとなった。確かに自分の通う大学の方がBさんよりも世間的には上だと見られている。しかも、その鉄道会社は例年、Aさんの大学の学生なら内定が出やすいと言われてきた。「それにしても、こんなに機械的に振り分けるなんて」。
隣で軽いショックを受けているBさんに、Aさんは「面接で人物そのものを評価して採用してくれる企業だってあるさ。元気を出せよ」と慰めの声をかけて別れた。例の鉄道会社では、Aさんの大学の学生だけを対象とした採用ページや説明会まで用意していたが、Aさん自身も2次面接で落ち、別の会社を選ぶこととなった。
Bさんとは、就活が忙しくなるにつれ次第に疎遠に。ただ、無事、就職が決まったと最近、風の噂で聞き、Aさんはほっとした気持ちになっている。
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