どんなに時間に遅れても、明るい性格も手伝って、まわりから許されてきた。
今月、東京都内の大学を卒業し、晴れて就職するAさんの大学生活は、万事がこんな感じだった。
友だちとの約束にしても、部活での集まりにしても、「いやあ、悪い悪い」で勘弁してもらえた。大学の授業だって数分遅れて教室に入っても、何もとがめられず出席扱いになった。自己分析すれば、自分が待つということに耐えられないということかもしれない。約束した時間に間に合うよう電車に乗る時も、いつもギリギリだった。
就活の「都市伝説」の一つに、「エントリーシート(ES)を速達で出すと落とされる」というのがある。速達というのはギリギリになるまで書かなかったことに通じるから、怠け者とか熱意が足りないと見られやすいというのが、伝説の背景にある。それも百の承知。でも、追い詰められないと本気にならない癖は直らない。そうやって、いつも周囲をはらはらさせてきた。
ある志望先にESを出す時など、郵送では間に合わないタイミングまで遅れたため、締め切り当日の午後、その会社近くの喫茶店に陣取った。時計とにらめっこしながら書き上げたのは、提出時間のほんの数分前。ダッシュで店を飛び出し、ESの受け取り窓口をめざした。ところが、会社の入り口から見えたのは、「もぬけの殻」の受付だ。「しまった、もう時間切れか」と青くなった瞬間、ESを受け取る人が階段を上がっていく様子が目に飛び込んできた。
駄目もとでと、階段を駆け上り、「もう受け付けてもらえませんか?」と恐る恐る声をかけた。ルール上は拒否されても仕方ない。でも、やさしい目をしたその人は「いいよ」とESを直に受け取ってくれた。
こんなことだから、「ついつい甘えてきた」とAさん。だが、「最終面接遅刻事件」はさすがに、身にこたえた。都内のある会社の最終面接まで進みながら、電車の乗り換えに戸惑った結果、面接時間に5分遅れた一件だ。面接官と話が盛り上がったのにもかかわらず落とされたのは、絶対時間にルーズなことが嫌われたのに違いないと思っている。
反省したその後、迎えた大本命の会社の面接の時は、ちょっぴり気をつけて早めに行ったおかげもあって内定が決まった。
みんなも親しい仲間に、こんな人間、一人や二人いるでしょう。就活では少しは改まるかもしれないけど、Aさんはこれから始まる社会人生活に向けてちょっと不安だ。「会社に入ったからといって、本当に何でもギリギリの癖が直るかどうか、あまり自信がないんです」
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