「文化の力を炸裂(さくれつ)させよう」
大里 洋吉が語る仕事―3
人に信じられてこそ、仕事
才能より強いのは素直さだ
多くのアーティスト志望の人が当社アミューズの扉をたたいてきてくれます。うちは作品や曲などを丁寧に確認するし、ステージも必ず見に行きますが、最終的な決め手は人柄ですね。そう言ってしまうと意外かも知れませんが、自分の才能に自信がある人とか、傲慢(ごうまん)なヤツとかとは、まず一緒にいたくない(笑)。それだけで人を引き寄せる魅力がない、人間力がないと判断できるんです。
短期間なら何とかなるかも知れない。でも、まず自信があるという人間は自分で自分の可能性の限界を決めてしまっている。才能とは、それこそ周囲の優れたマネジャーやプロデューサーから引き出されて伸びていくものなのに、「自分のこだわり」から抜けられない人は羽ばたけない。
それはアーティストだけでなく、マネジャーやプロデューサー、多くのスタッフ、そしてどんな仕事でもおそらく同じです。素直に耳を傾け、心を開く人間じゃなければ、仕事という長い時間を本気でつき合えないし、心からお互いを応援できない。仕事とは、多くの人に感動を届けることだし、感動は分かち合えるものじゃないですか。お客さんとなってくださる人のことを想像し、やるべきことを考え抜いてやり切る。その誠実さの積み重ねは才能に勝ります。
僕が全社員に出した手紙
エンターテインメント業界、芸能界の仕事は、ややもすれば同じ失敗をしても一般の方より厳しい視点で見られます。新しい楽しさを作り出すには、のびのびと仕事をしなくてはならない。しかし社会的な信頼も得なくてはならない。そう考えてうちが初めて上場を果たしたのは創業23年目ですが、その上場に際して僕は、全てのアーティストとスタッフの自宅に手紙を送りました。それまでは自由に動き回る社長を筆頭に、プライベートな会社が大きくなってきたという印象だったと思います。
手紙には、上場すると大変なことも増えてくるよと書きました。伝票整理や期限が厳しくなったり、経費削減や利益を念頭に置く意識も必要になってくる。今までの極めてどんぶり勘定的な会社から、パブリックな会社になれば負荷も掛かるし窮屈にもなるでしょうと。でも、国内外の信頼を得られ、仕事がやりやすく広がっていく大きなメリットもある。そうして力を合わせて利益が出れば、みんなに還元できると伝えたかった。そして、一人500株をアーティストとスタッフ全員に贈りました。
やんちゃな青年が大人になって、もっといい仕事をすると信じたいのです。ダークなイメージもある業界だなんて思われたくない。優れた仕事を飛び抜けたエネルギーでやって、認められようということです。
この後しばらくして、実は僕が仕事に息切れし、2年ほど海外の大学に行ったり船に乗ったりとリタイアしていたんですが、いろんな刺激を受けてまた会社に戻ったら、みんなすごく育っていて、一回り大きくなっていい仕事をしてくれていた。日本のエンタメや文化を世界へという動きも社内で始まっていました。やっぱり、仕事力は力を合わせる面白さから生まれるんです。(談)