「文化の力を炸裂(さくれつ)させよう」
大里 洋吉が語る仕事―4
日本の文化は発信できるか
「経済は文化の僕(しもべ)」
若い時から、芸能や文化のグローバル展開を志してきた僕も、それを試みて挫折を経験した人間です。だからその難しさはよく分かっているつもりですが、それにしても4年後の東京での祭典を控えて、やはり言わなければならない。この国の大きなイベントを深掘りする総合プロデュースが、きちんと動き出しているのだろうかと。
50年前の東京は、経済の発展を世界に発信することで良かったのです。当時はまさにそういう高度成長期でした。しかし今回は明らかに違う。今までは経済中心で動いてきたけれど、今後は、これからの日本を世界にどう伝えていくか。日本の底力とも言える豊かでディープな文化を、地球の隅々まで印象づけるクリエーションが必要でしょう。
日本の経済力は、既に世界に伝わっている。LEDライトやテクノロジーなどの技術が群を抜いていることも、十分に認められているわけです。更に和食という食文化や、世界遺産になるほどの自然景観や建築物も広く知られることとなった。芸術や芸能、ポップカルチャーの厚みも誇らしいですよ。
しかし、僕たちの国が生み出す文化は日本の良さを「点」で愛してくれる人々によって、まだバラバラにしか理解されていない。僕らはただの働き蜂じゃないし、伝統文化だけの保守派でもない。もっとダイナミックなものを生み続けている。これから先の日本をどう位置づけてもらえるか。そんな、厳しくも楽しい覚悟の時にきているのかも知れません。
「経済は文化の僕」という言葉は、ベネッセホールディングスの福武總一郎氏から聞いた言葉ですが、経済優先で葬ってきた文化こそ、人として国として大切にするべきだという考えにとても共感します。目に見える「物=経済」の時代を過ぎて、日本は深い文化を提案する国を目指す。そのように世界へ伝えたいじゃありませんか。
若い人は閉じこもるな
衣食住に困らず、楽しいカルチャーもたくさんあって、今の日本ほど快適な国はないのでしょうけれど、ここで視野を無理やりにでも広げないと、20代、30代が中高年になった頃には、考え方が狭くなっているかも知れない。
実は先日、タイで開催された「ワン・ヤング・ワールド」という国際会議にうちの社員とスタッフ4人も参加しました。世界から30代以下約1300人が集まり、コフィ・アナン前国連事務総長らリーダーたちの話を聞いたりしたほか、朝から晩まで人種問題や宗教問題、エネルギー問題などをテーマに4日間ディスカッションをし尽くしたそうです。参加した社員たちがものすごく様変わりして帰ってきたのを見て、外に出ていく大切さを改めて感じました。
日本は豊かな文化と、高い民度を持つ国です。それは目覚ましい経済発展の陰に隠れて忘れられそうになっているけれど、きちんと課題が見えてくれば、またたちどころに能力を発揮する。ITの技術で世界のエンターテインメントを自由に楽しめるようになった今、つながろう、伝えようとする気持ちがあればいくらでも前に進めるんです。そう、この「つながる力」こそこれからの仕事力かも知れません。(談)