「伸びしろを求め、学び続ける」
中川 政七が語る仕事--4
日本の工芸を元気に
相手に伝わることが大切
各地に残る工芸は、日本の暮らしや地域風土から生まれたものだからこそ、日本人にとって非常に理にかなったモノなのだと思います。しかし、そのモノの特長がお客さんの「欲しい」という気持ちに届いているでしょうか。
例えば、僕がコンサルティングでメーカーさんに伺った時、担当者の方がいきなり専門用語で説明を始めるとします。でも、業界外の人間にはさっぱり分からないんですね、日本語なのに。それを正しく整理して、お客さんの心にも響く言葉に翻訳して初めて、コミュニケーションを成立させることができるのです。
また、展示会に出展するということもあります。作り手としては、自分たちが持つ技術や特長の全てを盛り込んで話したくなるものです。でも、よくよく相手の気持ちになってください。巨大な展示会場だと、他にも多くのメーカーさんがいます。訪れるバイヤーさんは数時間でピンとくる品を探そうと駆け足で回るため、一メーカーから10の技術説明を聞くようなゆとりはない。「一言で分からせてくれなきゃ」というのが相手の気持ちです。
一般のお客さんはどうでしょうか。買い物をしている時に見かけるバッグや食器といった「アイテム」からは、その背景にある作り手の「技術」や「想(おも)い」というものは見えてきません。大切なのは、そういった、相手が置かれている状況や気持ちを探り、伝わるようにコミュニケーションを設計することです。
工芸業界を取り巻く環境は今、非常に厳しい状況にあります。それは「伝統工芸」という言葉にも象徴されている。僕は、ある時期から進歩しなくなったものに「伝統」という名前がつくのだと思っています。例えば自動車産業は100年以上続いていますが、誰も伝統とは呼ばないでしょう。進化し続けているからです。
ブランドとして成立するためには、商品だけでは足りない。こちらの考えていることを、物語としてお客さんにきちんと説明する必要があると思っています。
ヒントは、アートや直感にある
最近、共感できるいい本に出合いました。『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか? 経営における「アート」と「サイエンス」』です。
この、アートという言葉は説明が実に難しい。しかし経営者も役員も、アートの重要性をまだ理解できていない。この辺りが日本の会社が先に進めない要因かも知れません。僕もロジックは重要だと考えていますが、直感的に動くこともよくあります。クリエーティブの世界では、その直感に従って「飛ぶ」ことをクリエーティブジャンプと言ったりします。
いろいろな視点を鍛え、技術を「美」に変えていく。そんな感性が必要な時代になりました。ある陶磁器メーカーで、初めは周囲から否定されていたにもかかわらず、若い社員が「カッコイイ!」と押し切って開発した新製品は、今お客さんの心を捉えています。
飛ぶのは確かに怖い。でもそこで思い切らなければ大した結果にはならない。活路は、ジャンプへの勇気にあるのではないでしょうか。(談)